第5話
「お疲れ様でした!」
「「お疲れ様でした!」」
窓ガラスに映る漆黒の闇と、床に反射するオレンジ色の光。
午後7時、部活の終わり際にて。俺は、まだ熱気の残る体育館で、帰り支度を整え終えた一人の先輩を捕まえていた。
「桐崎さん、質問良いですか?」
...そう、件の二年PG、桐崎碧さんを。
「...何だ、
「...御厨零音の事です。桐崎さんと零音が付き合ってるって本当なんですか?」
桐崎さんは、一瞬怪訝そうな顔をしたが、
「...本当だよ。俺達は恋人同士で、零音は俺の彼女だ」
と、半ば無愛想に言葉を紡ぐ。
...終わった、と思った。やっぱり零音は、この人と...。
「有難うございます」
と一礼して立ち去ろうとしたら、桐崎さんは
「ちょっと待て」
と俺を呼び止めた。
「何でだよ。もしかしてお前...零音の事狙ってんのか?」
「...ッ!?」
「...図星かよ。誰が何と言おうと、他の奴に零音は渡さねーよ。例えお前が零音の幼馴染でも、今の零音の隣にいるのは俺だ」
「!?何で、知って...!?」
「水鏡悠也って名前、どこかで聞き覚えあったんだよ。それで零音に訊いてみたら、アイツの幼馴染だったって訳だ。...零音、相当驚いてたぞ。昔相棒だった奴と、こんな形で再会した事に」
「...」
「まあ、幼馴染だろうが何だろうが、今の零音には俺がいる。バスケにしても女にしても、俺は零音に並ぶ奴はいないと思ってるしな。...お前、知ってたか?アイツの名前は零音。零の音って書く『レネ』だ。数字が『0』に変わる瞬間に、最後の最後に、アイツは全てを決める」
それだけ残すと、桐崎さんは
「じゃあ、また明日の部活でな」
と、俺の視界から遠のいて行く。
...胸の中で、どす黒い炎がメラメラと燃え盛るのが分かる。嫉妬だ。零音を渡したくないという、独り善がりな醜い妬み。
幼馴染の俺の方が、あの人よりもずっと零音の事を知っているはずなのに...。何で、俺の心は、ぽっかりと大きな口を開けているんだろう。
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