第3話

 まだ桜が咲き誇っていた4月に、俺は、この私立桜楼学園高等部に入学した。とは言っても、バスケの推薦で外部入学したから、春休みのうちから部活には参加していたのだが。

 強豪と謳われる桜楼おうろうでの部活は、想像以上に厳しいもので、初日だけで何度音を上げそうになったか分からない。喉が潰れるくらい声を上げて、全身の筋肉が千切れるくらい動いて。長い休み明けで鈍った身体は、もう何も考えられないくらい疲弊していて。

 でも、休憩時間に、隣のコートで行われていた女バスの練習を眺めていた時...1人の少女の姿を見て、俺は言葉を失った。

 獣のように鋭い双眸。

 ボールを操る長い手足。

 蝶のようにコートを舞う姿。

 DFを嘲笑うように放たれた3Pシュートは、素早く回転しながら宙を舞って、軌道の先で待ち構えるゴールネットに静かに吸い込まれる。

「零音ナイス!」

 直後に掛けられるチームメイトの声と、そんな仲間達に小さく微笑む黒髪の少女。

 その瞬間、俺の脳内では、どこか大人びたようなその表情と、記憶の片隅に残る幼い少女の笑顔が重なった。



『また一緒に遊ぼーね!悠也君!』



「零音...もしかして、御厨零音?」



 そう、彼女はまるで、かつて一緒にボールを追いかけた幼馴染のようで。

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