エピローグ
エピローグ
『じゃあ、ここの壁紙は、こっちの柄でいいかしら?』
『はい。そちらの方が日本の小物が映えると思います。』
『オッケイ!じゃあ、それにしましょう。……じゃあ、今日はこれで終わりにしましょうか、翠。』
『ええ。お疲れ様でした。』
翠は、スタッフに挨拶をし、片付けをして打ち合わせの部屋から出た。
翠が「one sin」の日本スタッフの代表として現地に派遣されてから1ヶ月が過ぎた。
お店を一から作り上げるのは、想像以上に大変で、翠は休みなく働いていた。
日本とは違う異国での生活に、始めは苦労したけれど、それでも憧れの土地という事もあり、翠は毎日が新鮮で幸せだった。
『翠!今日は夕飯一緒に食べに行かない?』
翠の後を追いかけて、ギリシャ人の男性が声を掛けてくれる。いつも親切にしてくれる年上の優しい男性だった。
すると、横から別の女性スタッフが『ダメよ!』と、その男性を止めた。
『今日は、日本から大切な人が来る日なのよ。邪魔しちゃダメ!』
『翠、そうなのかい?』
『ごめんなさい。そうなの、今から空港に行くから、また誘ってね。』
翠は頭を下げて謝りながら、二人のスタッフに手を振って別れた。
その後は、タクシーに乗って空港へと向かう、はずだった………。
打ち合わせの場所から少し離れたところに、ここではなかなか見られない着物を着た男性か立ってちるのを見つけるまでは。
周りの人々も、物珍しそうにすれ違いながらチラチラと見ている。
最後に会ったのは2週間前だろうか。ずっと会いたかった人がすぐ近くにおり、驚きながらもすぐに駆け寄った。
「冷泉様っっ!」
「翠……お疲れ。」
「空港に迎えに行こうと思ってたんですよ。」
「少し早く着いたんだ。乗り換えがスムーズで。………少し頑張り過ぎなんじゃないか?顔が疲れてるぞ。」
色は嬉しそうに翠を見つめながらも、心配そうに翠の顔を撫でた。
1ヶ月前、一緒にギリシャの現地入りをした色だったが、彼は忙しい人でずっとギリシャに居る事は出来ない。そのため、店がオープンするまでは、日本とギリシャを行ったり来たりする事になる。
きっと、疲れているのは色の方だと翠はわかっていた。
「大丈夫です!冷泉様に会えたので、すぐ元気になりましたよ。」
「俺もだ。」
翠と色は、ゆっくりと顔を寄せて、小さく挨拶のようなキスをした。周りの外国の人々は挨拶に見えているかもしれない。けれど、ふたりにとっては、久しぶりの恋人との愛を求め合うキスだった。
「………外だと、やはり恥ずかしいですね。」
「ここは外国なんだ、気にするな。……さて、行くか。」
「夕食ですか?」
「いや、サントリーニ島のホテルだ。」
「えっ!?サントリーニ、ですか……?」
サントリーニ島は、白の建物が並ぶ綺麗な島で、海の青との白の建物のコントラストが絶景だと、日本でも有名な観光スポットだった。
翠もギリシャに来たならば行ってみたいと思っていた場所だったので、とても嬉しい。
「飛行機で30分ほどなので、明日には帰ってくるのですよね?」
「………わざわざあそこに行ってそんな訳ないだろ。3日休みにしといたから、あそこでゆっくりしろ。」
「えぇっ!……冷泉様は突然すぎます。」
「嫌だったか?」
色は、ニヤリとした顔でそう言った。
彼はきっと翠の気持ちをもうわかっている。意地悪で聞いているとわかっているのに、彼には逆らえない。そんな彼が好きな自分が負けていると、翠は思っていた。
「冷泉様とサントリーニに行けるなんて、幸せです。」
「……俺もだ。十分に甘えさせてやるよ。」
そう言うと、また彼は翠にキスを落とした。
それは挨拶とは言えない、濃厚な口づけだった。
「……好きだよ、翠。会いたかったんだ、ずっと。」
「私も寂しかったです、冷泉様。」
「今日からまた、お前を独占してやるからな。」
濃い蒼の浴衣を着た、俺様な翠の恋人は、微笑みながらそう言うと、翠の手を取った。
翠は彼の熱と香りを感じながら、彼の隣を一緒に歩いていく。
今も、これからも…………ずっと。
(完)
俺様系和装社長の家庭教師になりました。 蝶野ともえ @chounotomoe
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