後輩という名の先輩

囲会多マッキー

第1話 基礎打ち、基礎合奏

「先輩、基礎打ちって何やってるんですか?」


去年のままでやるなら、2分、4分、2拍3連、8分、3連符、16分。をそれぞれ4小節ずつである。ただ、途中で8小節ずつに変えたからなぁ⋯⋯。正直、どっちでやればいいのか未だにわからない。


「とりあえず、体験の時にやったやつ⋯⋯2分――と、去年の初心者講習会の時にもらったこの楽譜のやつをいくつかやってるんだけど⋯⋯正直、自分がやりたいようにやるんだよね⋯⋯」


こめかみの近くを少しだけ掻きながら、困惑⋯⋯というか、「やばいな」みたいな反応をされている気がする。


「⋯⋯な、なるほど」


やっぱり呆れられてるよ。絶対、「先輩、それしかやってないんですか⋯⋯?だから下手なんですよ⋯⋯」って思われてるよ。


「時間もないし、とりあえず、終わらせちゃおうか」


「は、はい!」


随分と元気が良い。俺が入った頃なんて、頷くぐらいしかしていなかった気がする。もしかして、強豪中学みたいな所だったのか⋯⋯?


事件が起きたのはだんだんと速度を上げ、テンポ180の3連符の事だった。初めてから間もない俺は、3連符が均一ではないのである。しかし、その後輩は綺麗に、しかも強拍までつけていた。さっきの予想が当たり、「今年のコンクール曲のスネアは決まりだな」と少しだけ悔しく思う。


今年のパーカス責任者(?)は俺だが、技術は圧倒的に後輩の方が上だ。なんだか、お願いをしていいものか迷ってしまう。単に1年、産まれるのが早いだけで、先輩になってしまった素人に指示されたくないはずだ。


コン、コン――


窓のある部室の部屋に居る管楽器の方達のお呼び出しだ。50秒も時間が進んでいる腕時計を見ると16時35分55秒である。なのに、指揮者の先輩が見当たらない。相変わらず、人のいない部活である。基礎合奏は、赤本と俺達は読んでいるが、基礎のことや運指が書かれている重要な本の一種だ。基本的に俺のいる吹奏楽部ではこの赤本を元に基礎合奏をしていく。


「スケール1、2、3とカデンツやります」


スケールなどについては恐らく、教本のメーカーなどによって異なる。大体はインターネットで調べられるはずだ。


その中で、先程書いたカデンツというものがある。基本的に管楽器は1、3、5音などと呼ばれる音を吹くのだが、パーカスのスネアは32分で叩くのだ。つまり、16分の「タタタタ」と同じ時間で「タタタタタタタタ」と8回叩かないといけない。


今は専攻科の先輩は「ロールでいいよ」と言っていたが、そのロールが出来ないのである。しかも、そのロールにも種類があり、一つ一つの音がハッキリとした「オープンロール《open role》」と、叩いた時の音が目立たない「クローズドロール(クローズロール)」がある。


恐らくオープンロールとほとんど同じだと言っているのだろうが、吹奏楽でオープンロールはあまり聞かない気がした。しかも、ネットで調べても「2つ打ちをひたすら練習」などと書いていて、当てにならない。


半年以上ロールばかりを練習していたが、微妙な出来である。もちろん、後輩はそれが出来てしまうのだ。下手をすると「ロールでいいよ」と話した先輩よりも上手では無いか、というくらい。


「⋯⋯すごい」


ここまでくると、感嘆するしか無い。天と地どころか宇宙と深海ぐらいの差だと思った。ただ、そんなハイスペックな後輩にも、苦手なことがあるらしい。

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後輩という名の先輩 囲会多マッキー @makky20030217

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