第17話「秋の夜長~エピローグ」




   17話「秋の夜長」




 ☆★☆


 しずくは、心地良さを感じながら夢を見ていた。


 暖かい南の島で、白と2人で大自然の中、星空を見上げていた。草の香りを感じながら、寄り添うように地面に座り、時々現れる流れ星を見つけては、指差して教えあっていた。

 ゆったりとする時間と隣の白の熱がとても気持ちよくて、しずくはぎゅーっと白に抱きつく。

 すると、白も抱き返してくれて、しずくは胸が苦しくなりながらも幸せを噛み締めていた。そんな、しずくに白は、唇や頬、額などに軽くキスを落とし始め、気づくとそれは首筋にもなっていた。

 くすぐったさを感じ、「白くん、くすぐったいから、やめて、、。」と、しずくが言っても白は止めてくれない。

 あぁ、もう笑い声が我慢できない!そう思った瞬間、目が覚めたのだ。



 「あれ、、、ここ、、、。」

 「僕のうちですよ?目覚めちゃいましたか?」

 「、、、!?は、白くん!」


 目覚めてすぐに目の前に彼の顔があり、しずくは驚いて体を上げようとした。が、今は彼の両腕が顔の脇に置かれて、拘束されているような状態のため動けなくなっていた。彼に見下ろされる格好で、しずくはすぐに固まって動けなくなってなってしまう。


 「ごめんなさい、、、待ってる間、寝てしまったみたい。」

 「いいですよ。安心してくれてるってことで嬉しかったです。それにしても、すごくニコニコしてましたけど、どんな夢を見ていたのですか?」

 「えっと、、、白くんとデートする夢だよ。」

 「なるほど。もしかして、キスする夢みてました?」

 「、、、え?なんでわかったの?」

 「なるほど。現実と夢は繋がる場合もあるんですね、、。」

 「それって、どういう、、、。」


 続きを言おうとした言葉は、白のよって阻まれてしまう。言葉を奪うように、白にキスをされる。

 しずくだって、その言葉の意味はわかる。寝ている間に口づけをされたのは恥ずかしいが、いとおしくも思うのだ。白のいった通り、寝ている間も同じことをしていたのだから。


 うっとりとした目で唇から離れていく白を見つめる。すると、白は優しく髪を撫でてくれる。


 「しずくさん、寝ましょうか。」

 「、、、え?」

 「今日は疲れているみたいですし、ゆっくりしましょう?」

 「、、、白くん、、、。」


 しずくは、自分で思っている以上にショックを受けていた。やはり白は自分の事は好きでも、求めてくれない。大切にしてくれるけれど、深くは繋がりたいと思っていないのだ。そう考えるだけで、女としての魅力がないとか、恋人同士なのに、というモヤモヤした気持ちが一気に出てきてしまう。

 気持ちが高ぶってしまったからか、目がぼやけてきて、涙が出そうになってしまったことに気づく。


 「しずくさん、、、?」

 「ごめん!何でもないの、眠いからかな?何でだろう。」

 

 誤魔化せるとは思っていない。

 けれども、寝てしまえば忘れられる。また、夢の世界なら悲しくない。そう思って、ぎゅっと目を瞑った。

 すると、白はしずくの横に一緒にからだを倒して、またしずくをじゅっと抱き締めた。



 「しずくさん。僕はすごくしずくさんが欲しいです。今、こうしているだけで、しずくさんを自分のものにしたくて、仕方がないんです。」

 「、、、うん。」

 「でも、今日はだめなんです。全てしずくさんがリードしてくれて、今日は僕の家に来てくれることになりましたよね?だから、次は僕からお誘いしたいんです。」

 「白くん、、。」

 「しずくさんより年下ですけど、しずくさんを貰うときは、しっかりエスコートさせてください。それに、今日は僕が我慢できる男だってわかってください。」

 

 そう言って笑う彼。

 白は、いつもこうやって、しずくの考えている事以上を考えてくれている。それが、自分よりも大人で、しっかりしているところが悔しくもあるが、彼の魅力の一つでもあるのかもしれない。

 今、彼が欲しいと言えばすぐにでも、彼は自分に熱をくれるだろう。けれども、それは彼が今は求めているものではない。

 彼のエスコートがどんなものなのか、期待しながらしずくは、静かに頷いた。


 「じゃあ、私も我慢するね。でも、1つだけお願いしてもいいかな?」

 「なんですか?」

 「白くんと一緒に寝たいな。こうやって、くっついて。」

 「、、、もちろんです。僕もそうしていたいです。」


 白は、少し体を上げて部屋の照明を消して、サイドテーブルにある小さな灯りをつけた。

 真っ暗な中に温かい光が灯り、それによりうっすらと白の顔が見える。

 布団をかけると、2人の熱であっという間に布団の中が温まった。


 「あったかいね、、、。」

 「はい、、。あの、僕からもお願いしてもいいですか?」

 「うん、もちろんだよ。」

 「眠るまで、キスしてもいいですか?」

 「、、、うん。」



 それから、2人はうとうとするまで、小さなキスを何回も繰り返した。キスをしながら、クスクスと笑いあったり、ちょっとした話をしたり。

 こんな幸せな夜があってもいいのだろうか。

 熱でまた瞳が濡れてしまうぐらいの温かさと幸せを白に貰って、しずくは長い夜を過ごした。

















   エピローグ




 「ん、、、。」


 微かな光を感じ、しずくはゆっくりと目を開いた。いつもとは違う天井に、ふわふわの布団。まだ眠たい気もしたが、しずくは寝たままで周りを見ようとしたが、すぐに隣で眠る彼に気づく。

 すーすーと寝息をたてて気持ち良さそうに寝ていたのは、もちろん白だ。寝顔は幼く見えるというけれど、白もさらに若く少年のようだった。

 白の部屋に泊まったんだと、改めて実感し、一人で照れてしまう。キスだけだったとしても、白が沢山求めてくれたり、強引にキスされたことを思い出すと、顔が熱くなってしまった。

 恥ずかしくなりながらも、なかなか見れない白の寝顔をじっとながめる。好きな人が安心して寝てくれる。鼓動や呼吸、体温、彼が側にいてくるとその日の始まりから一緒にいてくれると実感出来るのが幸せでたまらなかった。


 しばらく、白の顔を見つめていると、ある事に気づく。白の肌はつるつるしてて、とても綺麗だった。私より美肌だなーなんて、考えていると自分が素っぴんだったことを思い出したのだ。お粉はしていたが、やはり好きな人の前では綺麗にしたい。白が起きる前に少しでも綺麗になろう。そう思って、彼を起こさないようにベットから出ようとした。

 その瞬間、白の腕が伸びてきてすぐに捕まり、布団の中に戻されてしまう。


 「白くんっ!?起きたの、、、?」

 「しずくさん、どこにいくんですか?」

 「えっと、、、顔を洗ってお化粧しようかと。」

 「僕、しずくさんの素顔好きですよ?」

 「そんなお世辞言わないで、、、。」

 「本当ですよ。昨日しずくさんが寝てしまったあと、ずっと眺めてましたから。」

 「え!?そんなの恥ずかしすぎるよー!」

 「それはお互い様ですよ。」


 白はそう言ってくれたが、しずくはまだ抵抗があり布団の中に隠れて、目から上だけだして、白を見ていた。そんな様子をみて白は苦笑しながら、「しずくさん。」と名前を呼んだ。

 

 「何か忘れていませんか?」

 「え?なんだろう、、、。」

 「おはようのキス、です。」

 

 白はその言葉を発しながら、優しくしずくが持っていた布団を剥がしとり、啄むようなキスをひとつした。

 

 「おはようございます。」

 「おはよう、白くん。」


 朝一番に布団の中で大好きな人と共に目を覚まし、そしておはようのキスをする。誰もが憧れる日常には、幸せの条件があるからだとしずくは知ることが出来た。

 それを今、実感できているのだ。


 目の前にいる彼と朝を迎えられた事が何よりも幸せだった。少しだけ冷たい唇の感触が、それを教えてくれたのだ。



 休みにしては早めに起きてしまったので、ベッドの中で少しの時間ゴロゴロして過ごすことにした2人。その時に、昨日気になったことをしずくは白に質問した。


 「白と初めてデートした時に、白は自分の絵本を買ったでしょ?どうして?」

 「僕の絵本を読んでいるところを初めて見て、感動したんです。僕の作った絵本を憧れの人が読んでくれてたって。それに、仕事場でのエピソードまで教えてくれて。沢山読んでもらえてるってわかって、絵本をつくって一番嬉しかった瞬間だったので、、、だから、記念に買ったんですよ。」

 

 白はキラキラと輝く目で、嬉しそうに教えてくれた。「今は、作業机においていつでも眺められるようにしてるんです。」とも話してくれた。

 

 知らなかったとはいえ、作者の前で感想を言ってしまったのは恥ずかしくなってしまうが、それでも白自身が喜んでいているのだから、よかった。


 「だから、隠し撮りもしちゃったんです。」

 「もう、、、それは削除してほしいよ!」

 「でも、僕はしずくさんの写真が欲しいんです。」

 「じゃあ、写真撮ろう!私も白との写真が欲しいから。」

 「、、、、?」





 簡単な朝食を食べ、身なりを整えて、二人はリビングのソファーにならんで座る。手には、(今だけは)世界で一つだけのさつき先生の絵本をふたりで持っている。

 朝の優しい陽射しが入り、キラキラとした雰囲気で写真を撮る。

 絵本を手ににこやかに笑う恋人同士のふたり。


 その写真はお互いのスマホの待ち受け画面になり、そして、白が大切に保管していた朽ちたスターチスの花の傍にも飾られたのだった。




 

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絵本王子と年下の私。 蝶野ともえ @chounotomoe

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