第14話「学祭の帰り道」




   14話「学祭の帰り道」




 しばらくの間、誰もいない図書館で、白としずくは話しをしていた。すっかりお昼の時間も過ぎていたので、白は「何か食べに行きましょう。」とここから出ようとしずくを誘った。

 だが、また追いかけられてしまったり、白が嫌な思いをしないか、しずくは心配だった。


 「白くん。もう出るの?また、追っかけられたりすると思うし、私と一緒で大丈夫かな?」

 「どうしてですか?」

 「だって、私、白くんより10コも年上だし。」

 「しずくさん、僕はしずくさんとデートしたいんです。しずくさんと恋人なんです。」

 

 少し怒った口調でそういうと、繋いだ手を強引に引っ張り、白は歩き出してしまう。時々強引なところがあるなーなんて、思いながらも、全く嫌な気持ちにならない。それは白が自分の事を思って行動してくれているからだとしずくはわかっていた。

 それに、少しぐらい強引な方が、うれしいなぁ、と白の後ろ姿を見つめ、しずくは照れながらひっそりと微笑んだ。


 白は、「手を繋いで歩いていれば、話しかける人も少なくなると思いますよ。腕を組めば効果は抜群だと思いますが。」と言われたが、しずくは白と腕をくんで歩くのはしたことがなく、恥ずかしいのと不慣れな事を理由に、断った。

 だが、手を繋いで歩く事は、白が譲らず図書館からずっと、手は離されずにいた。


 事務室に鍵を置きに行く途中。すぐに、「あ、王子だ!」と、女子生徒数人に見つかった。しずくは少しだけ体を強ばらせてしまったが、白は何事もなかったように、会話を続けながら、歩き続ける。

 その様子を見た女子生徒達は驚いた顔をして、何か小声で話していたが、声を掛けてくることはなかった。

 その後は、何回か男子生徒に声を掛けられたが、皆白の後輩で「先輩の彼女ですか?」と言われ、白はしっかりとしずくを紹介してくれた。しずくも緊張しながらも簡単な自己紹介をして、白の後輩との交流を楽しめていた。


 これからは、遠巻きに白を見つめる視線は痛いほどあったが、白が声を掛けられる事はほとんどなくなり、大学祭デートを予定通り楽しんでいた。

 吹奏楽の音楽を聞きながら昼食を食べたり、在学生の作品を見たり、ちょっとした仮装をして写真を撮ったり、しずくと白は学生に戻った気分で満喫していた。

 秋は少しずつ陽が短くなっている。気づくともう辺りが夕日で赤く染まっていた。家族連れはそろそろ帰る頃なのか、少なくなっていた。 


 「そろそろ時間ですね。最後に行きたいところはありますか?」

 「キノシタイチ先生のグッツ見に行きたいかな~って思ってたんだけど、白くんの後輩さん沢山いるよね?」


 もうなくなっているかもしれないと、しずくは半分諦めていた。大学祭の遊びに行く一番の目的のはずだったが、白とのデートを満喫出来、しずくはそれだけで満足していた。オフの時間なのに、仕事をしていた場所に戻るのも申し訳なかった。









 

 「あ、それならここにありますよ。」

 「??」


 ずっと持ち歩いていた大きな鞄を開くと、そこにはキノシタイチの絵本に出でくるキャスターのグッツが沢山入っていた。バックの中身を見て、しずくは驚き目を丸くした。

 

 「え、キノシタ先生のグッツがいっぱい!これ、どうしたの?まさか、、、。」

 「買ってきたわけじゃないですよ。今日のサイン会の報酬です。しずくさんにプレゼントです。」

 「そんな、、、白くんが頑張ってお仕事したのに、私が貰うわけにはいかないよ。」

 「僕は30冊サインしただけなんで、大丈夫です。それに絵本を買ってくれた人が沢山いれば、僕の報酬になりますよ。」

 白は「しずくさん、今までも、そして今日も買ってくれましたし。」と、言って大きな袋をしずくに渡した。

 「じゃあ、遠慮なくいただくね。白くん、ありがとう。とっても嬉しい!」

 

 グッツが全種類が入ったバックを抱きかかえながら、しずくは笑顔でお礼を伝えた。

 

 サイン会に参加した報酬としては、このグッツの量は多めの代金だった。だが、白はありがた迷惑なサプライズを貰った仕返しとして、キノシタの財布からグッツを購入して貰っていたのだ。

 もちろん、サイン会の仕事をしての報酬で受け取ったので、やましいことは何もない。だが、しずくには詳しいことは、もちろん内緒にしておいた。


 キノシタは「あー、、、飲みに行くお金が、、、。」と、嘆いていたのは、白だけの秘密だった。

 

 

 白としずくのふたりは、充分に大学祭を楽しんだので、大学から違う場所へと移動しようとしていた。もちろん、手を繋いだまま門まで歩いてる途中だった。


 「白先輩!それと、お姉さん!」


 目の前に現れたのは、サイン会の会場にいたピンクの髪が特徴の心花だった。

 心花は2人を見つけると駆け寄り、「会えてよかったです!」と嬉しそうにしていた。

 

 「心花と何かあったのですか?」


 心花としずくが顔見知りのような反応をしていたため、白は驚いたが「サイン会で並んでるとき、お話ししたの。」と、しずくは簡単に(少しだけ黙っていた部分もあるが)話しをすると、納得していた。


 「どうしたんだ?心花。」

 「キノシタ先生から頼まれて。これ、彼女さんにどうぞって。」

 「えっと、、、ありがとう。」


 心花は、しずくにキノシタ先生の絵本を渡した。中を見ると、サインと共に「白くんをよろしく!」と書いてある。それを隣から覗き込んでいた白は、苦笑していた。

 だが、心花は何故白の彼女が私だとわかったのだろうかと、疑問だった。それは、白も同じだったようで、「どうしてわかったんだ?」と心花に聞いた。


 「んー、サイン会で白先輩の知り合いだってわかったときに、勘でなんとなく。それに、これを見ちゃったら、、、ね。」


 そういって、心花は2人が手を繋いでいるところに視線を合わせた。確かに今の状態を見れば、恋人同士にしか見えないだろう。しずくは、今日知り合ったばかりの人だとしても、少しだけ恥ずかしくなった。こうやって、2人で出歩いている時にお互いの知り合いに会うことは、まだほとんどなかったので、どうやって過ごせばいいのか、わからずにいた。


 「デートの邪魔してすみません。残念だけど、白先輩の事、すこーしだけ応援してますね。」

 「え、、、?」

 「心花、、、。」


 白がため息をつきながら呆れるような声を出した。その横では、固まっているしずくがいたが、それを気にせずに心花は、悪戯っ子のような笑みを見せて走り去っていった。


 「えっと、、、あれは、、。」

 「やっぱり白くんは、モテるんだ、、、。」

 「そんな事ないですよ!しずくさんだって、モテるじゃないですかー!」

 「え、モテないよ!」

 「これ、貰ったんですよね?」


 ジャケットのポケットから、白はあの紙を取り出した。白が出したものを見た瞬間に、しずくはすぐにそれが何かを理解して、どう説明しようかと悩んでしまった。


 「それはそのー、、、。」

 「青葉城なんてアドレスにしてるのは、青葉しか考えられませんね、、、。」

 「それは連絡先を教えて貰っただけで、、、。交換してないよ!」


 白としずくは、お互いに焦りながらも潔白の証明をし合ったのだった。

 お互いに納得するのには、夕焼けから夜になるまでの時間がかかったのだった。




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