第13話「甘い空気」
13話「甘い空気」
白はいつでも温かいなと、しずくは思う。
白と話せば心が暖かくなるし、手を繋いげばじんわりと熱が移ってくるのが嬉しい。
そして、キスする時の白の唇は、冷たいのにとても熱く感じてしまうのはどうしてなのだろう。
話しを止めさせるような、有無を言わせぬキスも、荒いようで温かいものだった。
少し長く口付けた後、名残惜しそうにゆっくりと離れていく。
急にキスをされたのに、しずくは驚いたのは一瞬だけで、その後は白の想いが唇から伝わったかのように、とても心地よく安心した気持ちに変わっていた。
「そんな、可愛いこと言わないでください。」
白の思いがけない言葉に、しずくはゆっくりと返事をした。本当はしっかりと答えたいのに、まだ口づけの熱が冷めないようだ。
「可愛くなんてないよ。過去とか、立場とかに嫉妬するなんて、醜いよ。」
「しずくさんは、僕が好きだからそう思ってくれるんですよね?」
「それはそうだけど、、、。」
白は、空いている手でしずくの輪郭をなぞるように包み込みながら、言葉を続ける。その表情はとても幸せそうなもので、見つめているしずくが照れてしまいそうになっていた。
「しずくさんが知っていてくれただけで、絵本作家としてはまだまだ新人ですよ。絵本王子ってのは、すごく恥ずかしくて嫌なんですけど、何故か大学の時にそう呼ばれてしまって。確かに女の子に声をかけられることもありましたけど、、、。」
「やっぱり、、、白くん、かっこいいし優しいからだよ!学生時代はモテモテだったんだね、、、そっかー。」
白から聞く華々しい大学生時代の話を聞いて、また落ち込みそうになっている、しずくを見て、白は笑いながら、親指で唇を指差すように軽く押した。
その行為が何を示しているのか理解すると、しずくは少しだけ頬を染めながら話を止める。
「また、嬉しいことをわざと言って、僕にキスしてもらう作戦ですか?」
「え!?違うよっっ!!、、、ていうか、白くん何か今日いじわるじゃない?」
「そんなことないですよ。あ、でも好きな子に苛めたくなる感じかもしれませんね。」
「そんなー、、、!」
しずくの批判する声を聞きながら、「可愛いしずくさんが悪いです。」と反論し、ゆっくりと近づいたかと思うと、また白はキスを求めた。しずくは、それを拒む何て事は全くなく、彼の熱を受け止める。
先ほどよりも深いキス。時々漏れる、吐息と水音が体を火照らせ、うっすら目を開けると、同時に目を開けたのか、白と視線が合うと嬉しそうに彼は目を細める。それだけでも、しずくは全身の力が抜けていきそうになった。今までで、1番熱く濃厚なキスに、しずくは翻弄されていた。
キスが終わった後も、白に寄りかかるように体を寄せていた。そんなしずくを白は優しく抱き締めてくれる。
やっぱり白は温かい。
「僕の話もしていいですか?」
耳元で囁くように話されると、しずくは体がくすぐったくなり、震えそうになるのを堪えた。
「白くんの話、聞きたい。」
しずくが返事をすると、彼は小さく頷いて、ゆっくりとからだを離した。
「昔にしずくさんに会った時、妖精の絵本をくれましたよね?それがとても大切になって、僕は絵本作家になろうって決めたんです。」
白の話は、初めて会った日の思い出から、しずくが知らない白の話だった。
少し恥ずかしそうにしながらも、ぎゅっとしずくの手を握ったまま語りかけるように話をしてくれた。
「それから、キノシタイチ先生がいる大学があると知り、その大学を目指しました。それがこの大学なんです。そして、この大学で勉強している間に、作った絵本をたまたまをある絵本大賞というものに送ったら、受賞してデビューしたんです。」
「え!?学生のうちから!白くん、すごいねー!」
「いえ。たぶん運がよかったんだと思います。現役大学生が描いた絵本って話題にもなりますし。それで、大学でも少し話題になってしまい、あんな呼び名まで、、、。」
なるほど、きっと大学誌や掲示板などで「この大学から絵本作家デビュー!」みたいに書かれたのだろうか?それで、白を知り、話題性と見た目の良さ、そして柔和な性格で人気が出たのだろうと、しずくは思った。
今でも追いかけられてり、名前を呼ばれるぐらいだから、相当な人気だったのだろう。本人はあまり気にしてないようだけれど、、、。絵本王子の事と、モテたという話は、白は嫌なのかもしれないと思い、それについては追求しなかった。(しずくは、かなり聞いてみたかったけれど。)
「そして、僕が絵本作家のさつきだと黙っていた理由なんですが。本当に自分の我が儘なんです。だから、謝りたかったんです。」
「ううん。それは気にしないよ。何て言うか、マイナスの意味で隠してたわけじゃないってわかるし。」
「ありがとうございます。実は、理由は、、、これなんです。」
白はそう言いながら、鞄の中から一冊の本を取り出した。小さめの絵本で、ひらがなで「パチパチパチパチ!」と書いてある。絵はウサギや猫などの動物が手を叩いてる可愛らしいものだった。
そこにはしっかりと、「さつき」と白の作家ネームがあった。しずくは、さつきの絵本を沢山読んでいるが、この絵本は見たことがなかった。それに、いつもは淡い色合いが多いかったが、今回は色が濃くはっきりとした印象を受けた。
「これってもしかして新作?」
しずくがそう聞くと、白は嬉しそうに頷いた。
「これは、しずくさんにプレゼントです。世界に1つしかないんです。」
「え!?1つだけ、、、。」
「0才児の子どもたちに読んであげてください。今回、赤ちゃん向けを作るのはかなり苦戦したんです。赤ちゃんはビビットカラーの方が認識しやすいとか、繰り返しとか絵本の真似をするのが好きだとか。」
白は子どもを楽しませるために絵本を作ってくれたのだ。しずくの教え子のために。
そんな白の気持ちが嬉しくて、しずくは少しだけ目がうるんでしまった。
世界にたったひとつのプレゼント。それも、大好きな彼からのもので、しかも思い出が深い「絵本」となると、とても大切なものになる。
「本当はしずくさんへの絵本の方がいいのかなって。ロマンチックなのかなっても思ってんです。けど、絵本は沢山使ってもらった方が、僕は嬉しいので。」
「ありがとう。本当に嬉しい!読んでもいい?」
「もちろんです。」
しずくは、絵本のページをゆっくりと捲った。すべてのページの動物たちが、可愛いかったり、楽しそうだったりで、子どもたちにも目が惹く色合いもとても素敵だった。白が話したように、繰り返しもおもしろく、何回か読んだら子どもたちは覚えて真似するだろう、としずくは子どもたちの姿をすぐに想像できた。
集中出来る時間が短い子どものために、ページ数も少ないのであっと間に絵本は終わってしまった。
白は、少しだけ心配そうにしずくを見ていた。
「うん、子ども達、とっても喜びそうだよ!白くん、すごいね!」
「、、、!本当ですか?よかったですー!」
しずくの反応を見て安心したのか、彼はホッとした表情を見せた。
「でもね、、、、白くん怒らないで聞いてね?」
「はい!アドバイスは嬉しいので!!」
しずくは真面目にしずくの説明を聞こうとしていた。絵本に対して本当に真剣なんだな、っとわかる態度にしずくは白がますますかっこよく見えてきた。
しずくは「アドバイスではないんだど、、、。」と、前置きをしながら、白にやさしく語りかけるように話しをした。
「こんなに楽しい絵本なのに、私だけなんて勿体ないなって思っちゃったの。私だけ独占したいって気持ちも、もちろんあるんだけど、、、他の赤ちゃんにも楽しんで欲しいって思ったりで、、、少し葛藤してるけど。」
そう伝えると、白は少しポカンとした表情になったが、すぐに「クククッ。」と顔を歪めて笑い始めた。しずくは、何か面白い事を言ってしまったのかと思ったが、何故白が笑ったのかわからずに、「えっえ?何で笑うの?」と戸惑ってしまっていた。少しの間、困り顔のしずくを残して白は笑い続けたが、「すみません。しずくさんらしいなって。なんだか、嬉しくて。」と白が少し笑いすぎて涙が出そうになったのか目を指で拭きながら、やっと言葉を発した。
「しずくさんは、本当に僕を褒めるのが上手ですね。現役の保育士さんに褒められるのは嬉しいです。しずくさんには、特別に幸せですし。」
「、、、白くんの方が上手だと思うけど。」
「じゃあ、お互いに、ですね。」
そんな事を言って二人で笑い合う。
ゆったりとした時間の中で、囁き合うように言葉を交わし、笑顔や時には真剣に話せるのが、白でよかったと、しずくは思った。
「しずくさんだけの本は、またの機会に、ですね。」
「うん!それがいいと思う。」
喜びつつも「せっかく私のためにつくってくれたのに、我が儘でごめんね。」と白に伝えながら、いつも白がしてくれるように、彼の頭を軽く撫でる。
すると、白は一気に顔を赤くしてうつむいてしまう。
「これ、実は恥ずかしいんですね。」
「そうかな?私は好きだよ?」
素直に白に撫でられるのが好きだと彼に伝える。
すると、「反則ですよ、、、。」と手で顔を覆いながら白は照れていた。
「白くん?」
「、、、これから沢山したくなりました。」
「沢山してくださいね?」
素直なしずくの言葉に、白はまた顔を赤く染めていた。サプライズのお返しに、しずくから沢山の嬉しい言葉を貰い、幸せな気持ちからかすぐにでも彼女を抱き締めたい衝動にかられていた。
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