第4話「作戦」




   4話「作戦」



 週末に大学祭デートを控えた平日。

 いつものように、白はしずくを迎えに来ていた。その日は早番だったため、16時過ぎには仕事を終えたので、まだ外は寒くなっておらず、秋晴れのくうきを楽しめるぐらいだった。

 そんな気候だったためか、白は歩きで迎えにきてくれていた。いつものように「お疲れ様。」とお互いに挨拶をして、荷物をありがたくもってもらい、手を繋いで歩き出す。

 今日の仕事の事や、子どもたちのほっこりした話をしているうちに、あっという間に駅に着いてしまう。

 今日はこれでお別れだろうか。それとも、しずくの部屋まで着てくれるのか、ご飯を食べに行くのか。そう質問する時を待っていた。


 実は、しずくはあれから考えに考え行いてある作戦を実行しようとしていたのだ。

 それは単純だが、いつものように「今日はどうしようか?」というまさに今のタイミングで、自分から「白くんのおうちでお料理作りたいな~。」とリクエストしてみる、というものだった。

 しずくの自宅で手料理を食べてもらったことは何回もあり、そして、いつも喜んでくれるのだ。白も多少は自分でつくるみたいだったが、「得意ではないですね。」と言っていたのだ。

 白の家で料理をして、多めにつくればしずくが帰った後の朝食や昼食に食べられるし、外食やインスタントでは栄養面で心配だ。

 そんな理由もあるが、全ては白の部屋に行ってみたい!というのが本音だ。

 美冬に言われた「他の女の人」という言葉が気になっているわけではない。と、自分で必死に言い訳をしてしまっている。


 信じると決めていても、やはり不安になってしまうもの。

 だからこそ、この気持ちを払拭するためにも、白の家へ行きいのだっ!


 「やっぱり歩いてもあっという間ですね。まだ、一緒にいたいのに。」


 駅の前に着いて、そう漏らす白の言葉を聞き、しずくは心の中で、「今だー!!」と叫んでいた。


 けれど、声を掛ける直前に、白のスマホのバイブが鳴ったのか「あ、すみません。電話みたいです。」と、白がスマホの画面を確認していた。

 仕事や急用の連絡でない限り、しずくの前で電話を取ることは少ない白。今回はどちらかだったようで、すぐに電話をとった。

 少し離れた場所に行きなにかをしゃべっている。

そして、いつも仕事の電話ではないことが、すぐにわかった。

 妙に焦っているのだ。そして、恐縮しているようにも見える。会社の上司だろうか。

 普段見ない彼の様子に、しずくは心配になってしまう。が、電話中ではなんの手助けもできないので、見守るしかなかったのだった。







 「すみません!お待たせしました。」

 「それはいいんだけど。大丈夫だった?何かトラブル?」

 「えっと、、、その、トラブルというか急な仕事の依頼というかで。あの、しずくさんに謝らなきゃいけないことがあります。」

 「え?どうしたの?」

 

 そう聞くと、白自身の方が悲しんでるような顔をしながら、説明を始めた。

 

 「実は大学祭の日に午前中に予定が入ってしまいまして。なので、午後からでも大丈夫ですか?」

 「うん、それは大丈夫だけど、、、忙しいなら無理しなくていいよ?」

 「いえ!!デートしたいのは僕なので。午後からはしずくさんに会いたいです。」

 

 「ダメでしょうか?」と切ない顔で白にそう言われてしまうと、何故かこちらまで悲しくなってしまう。白とのデートを楽しみにしていたのはしずくも同じだったので、会う時間が短くなるのは正直残念な事だった。でも、その日会えないわけじゃないと、ポジティブに考えるようにするしかない。

 

 「じゃあ、午後はたくさん楽しもうね。」

 「はい!沢山甘えてくださいね。」


 年下の白に、そう言われてしまうのは少し恥ずかしいが甘えられるのは嬉しい。

 ずっと手を繋いだり、いろんなお店を二人で見て回ったり、白の思いで話を聞きたいな、と週末のデートに来たいが高まった。

 そんなことを考えていたせいで、しずくは今日の重大な作戦をすっかりと忘れてしまっていた。


 「それで、週末の仕事の準備をしなくちゃいけなくなったので、、、今日は帰ります。本当はおうちに行きたかったのですが、、、今日は寝ないで頑張るので、明日また迎えにいきます!」


 それを思い出した頃には、持ってくれていたバックをしずくに渡して、手を振りながら走り去っていく白が遠くに行ってしまっていた。


 「はぁー。今日も聞けなかった。タイミング悪いなぁ、、、。」


 ため息をつきながら、そう一人呟く。

 やけに重たく感じるバックを持ちながら、しずくはとぼとぼと自宅へと足を早めた。




 それから毎日忙しそうにしている白に、「おうちに遊びに行きたいな。」とは言えずに、あっという間に週末になってしまったのだった。

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