音楽と場所の記憶

 好きな曲を好きな順番に並べたプレイリストを、私はスマートフォンのアプリでいくつか作成している。そして決まった場所で特定のプレイリストを再生する場合が多い。例えば通院のために電車の某路線に乗るときはとある男性ロックバンドの曲を聴くし、地元から一人暮らしの部屋に戻るときは、閑散とした車内で二十年前のドラマの主題歌を堪能する。意図があって曲を選んだというより、いつもの習慣を踏襲しているだけなのだが。

 さて、実家の付近を歩くときは何を聴くかというと、Roger Ciceroという歌手の六曲である。ドイツ語の学習のつもりで購入したが、声が綺麗でメロディーも楽しく、あまり歌詞の意味がつかめなくとも気軽に聴くことができる。

 今日もマクドナルドへ向かいながら、イヤホンで彼の曲を聴いた。


 正午過ぎに目覚めたときは憂鬱に苛まれていた。気楽な夢から相変わらずの現実に引き戻され、昨晩睡眠導入剤が効いた状態で悩んだことが全く解消されていないことに気付いた。

 上がったり下がったりの気分の波に振り回され、病んだ精神を背負いながらイヤホンを耳に挿したのだ。

 彼は相変わらずの美声で歌っていた。二年前は毎日のように彼の歌を聴きながら地元の町を散歩した。憧れと不満足と希望に酔いしれながら、未来を夢見た。

 あの頃欲しかったものは大方手に入った。現在の私の方が幸福で充実しているに違いない。ただ苦しみも増えたが。

 何が変わったのだろうかと考えてみても答えは出ない。ただ、Roger Ciceroをいくら聞いてもあの頃には戻れない。

 一番好きなのはDie Listeで、それに変わりはないが。

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