第8話
静かになったレナがソファに座って抱き着いてくる。
試しにと使ってみたが、親密度を上げるアイテムで静かになるとか、親密度が下がるのが早すぎるというレベルじゃないように思う。スキルレベルを上げると親密度がリセットされるんだろうか、いや、そんな話しは聞いたこともないが。
一旦は静かになったレナだが、俺の肩に顔を埋めたまま、なにやら呟き出す。
俺に話し掛けているわけではないようで、ぼそぼそとした声は酷く聞き取り難い。断片的に「メニュー」「ログアウト」「どうして」という言葉が聞こえる。
ツンデレどころかレナが病んで来たような気がするのはどうしてだろう。
抱き着かれたままで身動きが取れない。なんとなくメニューを開いて、アイテム欄を眺める。眺め初めてから、精神に作用するアイテムがないかと考えるも、目に映るアイテムの中で精神に関わりそうな物は親密度を上げるアイテムくらいだ。
他のゲームであればバフ系のアイテムで「興奮剤」とか状態異常の回復で「鎮静薬」みないなのもあるが、このゲームにはない。戦闘の最中はキャラのスキル任せで、アイテムが使えないためだ。
アイテム欄をスクロールしながら見直しても、やはり、精神に関わりそうなアイテムはない。僅かに、スキルアップのためのアイテムで、フレーバーテキストに「夢」とか「心」の文字が使われているくらいだ。
諦めてメニューを閉じたところで、レナの呟きが耳に入る。さっきまでの呟きよりも少しだけ大きな声は、かすれるようにして問いかける。
「ねえ、私はどうやって、ここに来たの?」
どうやってと聞かれても反応に困る。
キャラは俺の指示や行動に反応を返すだけで、質問などしてこないからだ。
さっきから、メタな発言をしたり、病んでるように呟いたりと、普通とは違うことが多すぎる。何かイベントでも始まったのだろうか。
気の利いた答えなど思いつかないので、端的に事実だけを答える。
「ガチャで」
端的にメタ過ぎて通じるのかどうか不安になる。
ところがレナがその言葉に反応した。
パッと顔を上げて、ついでに俺の手を引いてソファから立ち上がらせる。
「ガチャよ! そうに違いないわ! 召喚の間はどこよ!」
突然、元気になったレナに引きずられて居間の扉を出る。
キャラは配置した部屋から勝手に出たりしないんだが、やっぱり何かイベント中なんだろうか。
レナに言われるままに召喚の間に案内する。
マイハウスの地下、階段を降りてすぐの場所に配置してあるのが召喚の間だ。
地下でももっと奥には倉庫や錬金室がある。地上の部屋は居間や寝室といった生活の場で、ゲーム的な機能を持った部屋は全て地下にまとめて配置してある。やはり工房とか魔法実験的な部屋は地下だろう。
召喚の間に入ると、虹色に光る渦が展開されていた。
ガチャでレアキャラが出る時だけ展開されるはずの虹演出。それが誰も居ない召喚の間でゆっくりとうねっている。
ここでガチャを引けるのは、プレイヤーである俺だけだ。それが召喚の間に入る前からガチャを引いた時のような演出が始まっている。その原因は何か。レナのスキル上げ以外にはないだろう。
ガチャでレナを引いた後にも、ピックアップ対象であるアリスを引きたくて何度かこの召喚の間でガチャを引いている。
その時は普通だった。その後はレベル上げとかスキル上げのアイテム集めをしていたからこの部屋には入っていないが、レナの普段とは違う行動から見ても、今起こっているイベントはレナのイベントだ。
レナが俺の後に続いて召喚の間に入ってくる。
居間を出た時にはレナが前で俺の腕を掴んでいたが、場所が分からない以上、俺が先に行くしかない。それでもレナは俺の腕を掴んだままだ。
ゆっくりとうねる虹色の渦に中心には黒い闇が沈んでいる。それは虹色の光に押し潰されているような、それとも、中心にある闇に虹色の光が吸い込まれているのだろうか。真ん中の黒と周囲の虹がぐにゃりと混ざり合って、じっと見ていると酔いそうだ。
レナは俺の腕を掴んだまま、虹の渦に近寄る。
ガチャならば、今は闇が漂っている中心部分に、新しいキャラが登場する。今は誰も現れる気配はない。
レナは俺の腕を掴んだまま、虹の渦に近寄る。
ガチャならば、虹色の演出はほんの数秒で終わる。今は、虹色がゆっくりと渦を巻いて終わる気配がない。
引きずられるままに渦に近づく。
ガチャならば、動かすためにはアイテムを消費する。俺の手元のアイテムはアリスの時で使い切ってしまってない。
虹の光が目にチラつく。
頭の中がチカチカする。
目を覚ますと、召喚の間だった。
どうということはないが、何か違和感を感じる。
気付いたら、床に腰を下ろしていた。尻が痛い。床にぶつけたのだろうか。
目の前がチカチカして目を瞑ったのは覚えている。その時に座り込んでしまったのだろうか、軽く頭を振って見る。もう大丈夫だろうか。
「なんなんだ」
思わず声が漏れる。
立ち上がりながら見回すと、レナの姿があった。俺の腕を掴んでいたはずのレナが、少し離れた場所に居る。目を閉じたのは一瞬ではなかったか。
レナの手に香水のような小さな瓶が現れて、かき消えた。
―――― GAME OVER ――――
Virtual Game OutRange 2 -ガチャに出会う、好きになる- 工事帽 @gray
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