幻の鳥

@alpha-omega

第1話 チェキ

ベッドの上で惰眠を貪っていると、柔らかなバラの香りがしたような気がした。何かが近づいて来る。


ぼんやりとしていると、だんだんその香りに、顔中を包まれているような気がして来る。


もう我慢の限界だとばかりに目を開けると、数センチの距離で、丸い、ガラス玉の様な瞳と目が合った。


「?!」

「?!!!!」


目が覚めた。

何か、言葉を発しなければと思うのだが、頭が混乱している。


黄色の花弁が床に落ちた。

何枚も何枚も。

私の顔からバラの花弁が落ちる。


目の前のガラス玉はそのまま微動だにしない。何か伝えたいことでもあるのか、睫毛が瞬く。こちらも視線を外せない。


意味深な数秒が過ぎると、ガラス玉は首をすくめて、作業に戻っていった。正確には、『首を竦めようとして』だと思う。


作業とは、多分私に、花弁をふっかける事なのだろう。一枚一枚丁寧に拾っては、顔に置きにくる。


「今日は何の日だ?」


起き上がると、すかさず嘴が額に飛んでくる。「痛い。。」


『寝てろ、花弁が落ちる。。。台無しだ。。』


という「音」が頭に直接流れ込んできた。


「Yes,sir」

ガラス玉がキラリと光った。

私の口からも、私の意思ではない言葉が流れる。」


「are you in good mood or bad?」

これも頭の中だ。目の前のガラス玉は沈黙したまま。


「i am in so creamy mood and you?」

ダメ元で話しかけてみる。この声が、目の前のこいつからとは決まったわけではないけれど。


何か言いたげな目がまた近くなってくる。

「creamy mood? What do you mean?」

「I had never heard 」「it’s interesting..」


「I’m jest super happy!!」

「?!?!???」

湖に映る月の様な静かな暗いガラス玉にはおよそ不釣り合いなfunny voice が頭の中に響いてきた。おもちゃ売り場によくいる赤いオウムのぬいぐるみが出していそうな声。やはりガラス玉は沈黙したまま。決してfunny face じゃない。


その目はじっとこちらを見つめている。まるで私の瞳の中の何かを探そうとしているかの様に。。。


「カシャリ」


え?


「〜🎵♩〜」


チェキだった。

吐き出されてくる写真をそっとつまみあげている。時々ふりふりしながら、きっと乾くのを待っているのだろう。


ふりふり。。フリフリ。。(おしり)フリフリ。


静かな瞳のあいつは、目を細めてにっこり笑う(様に見えた)と、はちみつ色の毛をなびかせて、ふわりと窓から出ていった。


あいつ、、、「どうやってスイッチ押したんだろ」


あんな嬉しそうな顔は初めて見たな。

二度寝する気にはなれなかった。

足元には、一枚の写真が落ちていた。


真っ黄色のバラに埋まって、あのガラス玉が信じられない様な変顔をしながら、短い足を上げてセクシーポーズをとっている。


これは今日、撮られたものなのか?

だとしたら、おかしい。

今日のあいつは真顔だった。


「何なんだ、あいつ。」






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