第39話 領主に下された審判

 僕たちの為に開催されたイベントに参加して楽しんだ後、空港で王女様の乗る空中帆船を待ち、閉会式への出席を確約してもらうことに成功した僕たちは、会場の待機場所で臨時領主エリケイと共に自己紹介を含めた世間話をしていた。


「そういえば王女様に自己紹介してなかったですね。私はクアメルです。こちらに居る魔法使いがミラで、エルフの弓術使いがリュエルと言います」


「私がラタネーの町副領主のエリケイです。今は訳あって臨時領主をやっています」


「えっと…… 貴女がクアメルさんで、魔法使いの方がミラさん、弓術使いの方はリュエルさん、そちらの水色の髪の方はエリケイさんですね。分かりました。では改めまして、私はティーテン王国の王女スレシア・ルルトラシオです。よろしくお願いします」


「「こちらこそよろしくお願いします」」


「ところであの…… あれを見て疑問に思ったのですが、何故あの男性は柱に縛り付けられているのでしょうか?」


 王女様が聞いてきたので、僕たちが町に来てからの出来事全てを簡潔に伝えた。もちろん、王女様にこのイベントの閉会式に来てもらった理由も含めている。


「……成る程。そう言うことですか。事情はよく分かりました。では、この町の役所を含めて領主の館を捜索することにします。貴女方の話だけを鵜呑みにして彼をどうこうするわけには行きませんので」


 そう言うと、王女様は護衛の兵士400人程に『領主の館と役所の捜索をお願いします。それと、領民の皆様に聞き取りもお願いします』と指示を出した。それを聞いた護衛兵士隊長は、館の捜索に130人、聞き込みに100人を向かわせて、隊長含む残りの270人程で王女様の護衛に当たることにしたようだ。


「捜索が終わるまでおよそ2時間程かかると思いますので、それまでお待ちいただけますか? 確実な証拠が無ければ罰を与えるわけにはいかないので……」


 そりゃそうだ。いくら民衆目線の王女様とはいえ何でもかんでも彼らの話を鵜呑みにして役人を辞めさせたり等するわけにはいかない。タニアが不正をしたという確たる証拠がなければ動けないだろう。


「スレシア王女様、ありがとうございます! 閉会式自体はもうすぐ始まりますが、式の開催時間は3時間程ありますので大丈夫です」


(閉会式が3時間とは、いくらなんでも長くないか?)


 何か発表会的な物を兼ねているか、実はまだイベントが終わっていないかのどちらかだろう。取り敢えず、疑問を解決するためにエリケイに聞いてみる。


「エリケイさん。閉会式3時間は長過ぎないですか? 何かまだ僕たちの参加するイベントがあったりするのでしょうか?」


「ああ、すみません。この後上空に光属性の魔力が込められた筒を打ち上げて、それが爆発した時に出来る華やかなアートを見ながら食事などを楽しむ会も含めて閉会式と呼びました。変な言い方してすみません」


(成る程。前世世界で言う花火大会のようなイベントがまだあったのか)


「いえ、全然問題ないですよ」


 そんな会話をしつつ、花火大会のようなイベント2時間半楽しんだ後、閉会式が始まった。


「それではこれより、閉会式を始めたいと思います。本日は、ラタネーの町に視察に来ているティーテン王国の王女スレシア様に来ていただいております。それでは、どうぞ」


 司会者のエリケイがそう言うと、待機していた王女様はステージに登壇する。


「皆様こんばんは。司会者の方も言っておりましたが、私はティーテン王国の王女スレシア・ルルトラシオです。なにやら私に言いたいことがあるらしく、それでここに呼ばれました」


 王女様の登壇は会場を熱気で包み、花火大会以上に盛り上がる。


「実はゲストをもう一人呼んでおります。それでは、お願いします」


 すると、手錠を掛けられたタニアと領民の代表者が登壇してくる。その瞬間、盛り上がっていた会場は一気に静まる。そして、王女様の前に立つと領民の代表者が口を開いた。


「王女様聞いてください! このタニア・リーティオと言う男は今まで我々が王国の為納めた税金を横領し、その不足分の補填を我々に押し付けて自分だけは贅沢をしていました。それだけでは飽きたらず、気に食わなければ暴力をふるい、それを隠蔽――」


 そこまで代表者が話した時、タニアが話に割り込んできた。


「そんなのは嘘です!! 王女様、全てこいつらのでっち上げです。私が気に食わないからと……」


「領主タニア、今代表者の言ったことはすべて嘘と。そう言いたいのですね?」


「はい!」


「では、この書類を見ても同じ事が言えるのですか?」


 王女様の手に持っていた書類には、タニアが今までしてきた悪事の数々を告発した文章や、税金書類の改竄かいざん、殺人・暴力事件の隠蔽の証拠がずらりと並んでいた。


「……」


「皆様。私は今ここに、タニア・リーティオを領主の座から追放することを決定したことを告げます!! 彼の罪については後でお伝えします」


 その言葉を聞いた全員は、これまでに無いほどの熱狂ぶりを見せて盛り上がった。

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水を司る神となって異世界へ 松雨 @shado5t5

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