第37話 領民から拒絶された領主
貴族風の男に火属性魔法を浴びせられて危ない状態だった男性を、治癒の精霊ローフェを召喚・治療した。それにより、男性は無事に回復した。
「……ん」
「あ、気付きました?」
「はい。あの…… 俺助かったんですよね?」
「危ない状態だったんですよ~。私の回復魔法で治療出来て良かったです!」
男性はそれを聞くと、ようやく自分が助かった事を実感したのか、目に涙を浮かべていた。
「ありがとうございます! 俺、正直もう駄目だと……」
声を殺して泣くその姿を見ていた僕たちも目に涙を浮かべた。
「良かったな! クアメル。お陰であの燃やされた人は無事だったし!」
「本当だよ。しかし、あの貴族風の男――」
「何をするか! 余計なことをしてくれおって!!」
僕たちの会話に割り込む形で入ってきたのは、治療の際に邪魔だったので吹き飛ばした、男性を火属性魔法で燃やすという非道を行った貴族風の男だった。
「その男は『あんたの決めた納めるべき税金が多過ぎる。税金が上がる度に屋敷が豪華になっている。お前は税金を横領しているのではないか。この事は直ぐ王国に報告させてもらう』などとほざきおったので罰を与えたのに、貴様が余計なことをしたお陰で全てが台無しだ!」
人として腐ってる奴の発言に怒りを感じたので、奴の元に近づく。
「おい。何近付こうとしてる。私はこの辺りを治める領主タニア・リーティオである!」
(成る程。こいつが最低領主のタニア・リーティオ……)
そんな事を思いつつ、更に近づく。
「おい! 聞こえなかったのか! ちっ。『獄炎収束砲』!」
近づく僕にタニアが火属性魔法を唱える。相手を中心に展開される紅い魔方陣から噴き出す火柱を一点に集め、そして放つ。周辺の可燃物が熱により自然発火するほど威力が高いが……
「それではこれを貴方に何倍にもして返しますね」
あの魔法の属性は火で、僕の属性は水。属性の相性がこちらに有利な上、もともと魔法防御も高い為、手でそれを受け止めて更に自身の魔力を加えて弾く。
「何だと! 弾かれた…… ん? しまった!」
弾いた獄炎収束砲は山なりに跳ね返りそのままタニア本人に着弾、巨大な火柱を上げる。
「ぐぁっ! あぁぁぁぁ!!」
その叫び声を聞いて、怒りに任せて何倍返しにしてしまったことに後悔した。少し時が経って火柱が消えると、フラフラになりながらもタニアが立っていた。火属性の強力な魔法を扱うだけあって、耐性も高いようだ。
「お…… おのれぇ…… おい! 衛兵! 何をしている。こいつを取り押さえろ!」
黒焦げのタニアがいつの間にか来ていた衛兵達に命令する。だが、衛兵達は動けない…… いや、自分達の意思で動かないようだった。
「おい! 何をしている。早く取り押さえろ!」
「……分かりました」
そう言って衛兵達は僕の方ではなく、タニアの方に向かっていって捕縛した。
「違うだろ! なぜ私を捕縛するんだ!」
「分かりませんか? 貴方はこれまで兵士たる我々や、この町の領民達を苦しめてきた。汗水垂らして得たお金を、なぜ貴方の贅沢、横領の補填の為に使われなければいけないのか。それを告発しようとした領民を、残虐な方法で殺し、それを隠蔽したことを我々は忘れない!!」
十数人の衛兵達は涙を流しながらタニアに対して怒鳴っていた。それを聞いていた周辺の領民もつられて目に涙を浮かべながら怒鳴り始めた。
「そうだ! このクソ領主! 今まで散々好き勝手しやがって!!」
「さっさとこの町…… いや、この国から消えていなくなれ!」
「どうせならお前みたいな最低人間なんかさっきの火柱で消えてれば良かったんだ!!」
この後タニア・リーティオは、数時間立てられた木の柱に縛り付けられて領民達に散々怒鳴り付けられた後、領主の館にある地下牢獄に適当に放り込まれて、王女様の視察が1日半後に来るまでそこに居ることになった。
現領主が居なくなった為、新たな領主が決まるまでの臨時の領主には副領主のエリケイが入ることになったようだ。
~領主の館 領主室~
あの騒動の後、衛兵達に連れられた僕たち4人は副領主のエリケイからお礼を言われていた。
「ありがとうございます。貴女方のお陰であの最低領主のタニア・リーティオを排除することが出来ました。お連れのお三方も色々とありがとうございました」
「貴殿方のお役に立てたようで何よりです」
「私のやったことはクアメルに比べれば見劣りするけどな」
「いや、ああ言うのも大切だと思いますよ。ミラ」
「私もちょっとは役にたったかな~?」
ミラに3人が僕がタニアと対峙していた頃何をしてたのか聞くと、騒動の理由を知らない民達への説明や謝罪回り、騒動の収束の手伝いをしていたみたいだ。
「あの…… 私どもと致しましてもこの件のお礼をしたいので、明日町でパーティーを開くので是非参加していただければと思います」
僕たちはその頼みを快諾し、明日開催されるパーティーに参加することに決めた。
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