第36話 アーシエの頼み事
「それで、頼み事とは何でしょうか?」
僕は、目の前のアーシエに問いかけた。
「それはね、この極大穀倉地帯の端にある町『ラタネー』を治めている領主『タニア・リーティオ』を社会的に排除して欲しいんだ」
ちょっとそれは実質ただの冒険者である僕たちには難易度高過ぎじゃないのか? とも思ったが、一旦その思いは頭の片隅に置いといてアーシエに聞く。
「『社会的に排除して欲しい』ね。理由を聞いても大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。それで、理由なんだけど……」
アーシエによれば、そのラタネーと言う町を治める領主タニアは、領民が汗水垂らして作った農産物を売って得たお金を、不当に多く取り立てているらしい。その理由は、王国の決まった税金を納めるために集めたお金を横領していて、それにより不足した分を補うためだとか。
そのせいで領民達はかなりの苦しい生活を
「王女様の視察って今回が初めてなのかな? 民衆目線の王女様がタニアの悪事を知れば即刻クビを言い渡すと思うんだけど」
「そうだと思うよ。今まで僕の加護している領域にそれらしき人物は入ってこなかったし」
成る程な。道理でタニアが今まで散々好き勝手やらかしておきながら未だに領主の座に就けていた訳だ。
「分かった。アーシエの頼みを受けるよ。2人は問題ない?」
「ああ。でも何で私達に頼むんだ? アーシエが自分でやれば簡単に済みそうなんだが」
「僕も本当はタニアを社会的じゃなく
そうアーシエが言いかけたとき、彼の背後に腰にまで届く金髪の女性が急に出現した。
「アーシエ君。こんなところで何仕事をサボってるのかな~」
「…………」
その女性はアーシエの服の襟を掴むと、数m先に出現した門に引きずりながら向かっていった。
「とにかく、後は頼んだ…… って、ちょっと! リステード様痛いですって!」
「これも仕事をサボった罰ですよ。我慢しなさい」
そうして、2人の神は光の門の中に消えていった。それと同時にまばゆい光が辺りを包み込む。光が収まった時、そこは祈祷室だった。
「戻ってきましたね」
「ああ。それにしてもリステードって創造神だっけ? まさかそんな最高位の神を少しとはいえ見ることが出来たのは一生に一度の経験になったな」
「そうですね。でも、よく考えて見れば神様と旅をしている今この状況の方も一生に一度の経験じゃないですか?」
「確かにそうだよね。自分で言うのもなんだけど…… さて、頼まれたことだし、ラタネーの町に行きますか」
「「了解!」」
こうして、ラタネーの町と、その周辺の領主であるタニア・リーティオを社会的に排除する為、港の人からラタネーまでの地図を貰い、プラノティネロスに停泊している空中帆船から出発する。
そして5時間程経つと、アーシエの言っていたラタネーの町に到着した。
「着きましたね。素朴な感じが良い町ですね。向こうに見えるやたら不釣り合いな屋敷を除けば、ですが」
「あれだな。悪徳領主タニア・リーティオの住む屋敷は。領民が汗水垂らして働いて得たお金を横領してるなんて許せないな」
「本当にそうだね。でも、これからどうやって不正の証拠を掴むか……」
どうやってタニアを領主の座から引きずり下ろそうか考えていると、後ろから魔力の波動を感じた。それとほぼ同時に何かが燃えている音と、大勢の悲鳴が聞こえた。何事かと後ろに振り向くと、1人の男性が貴族風の格好をした男に火属性魔法を放たれていた。
魔法を受けている方の男性の魔力反応が少しずつ小さくなっているのを感じた為、すぐさま邪魔だった貴族風の男を水弾で弾き飛ばして男性に駆け寄る。
「こいつは不味いな…… あ、そうだ!」
ふと、神水桜に宿りし精霊ローフェの事を思い出した僕は、彼女を召喚する術を唱える。
「神木に宿りし治癒の精霊ローフェよ。我の
桜模様の描かれた魔方陣を展開、その中心から光に包まれてローフェがやってくる。
「よっと。あ、白髪のお姉ちゃーん! 私を召喚してくれたんだね! ありがとー!」
「ローフェ。早速で悪いんだけど、この男の人の治療お願い」
「分かった。お姉ちゃん私に任せて!」
そう言うとローフェは魔法を唱え始めた。
「あらゆる痛みや苦しみから、この者を解放せよ……『精霊の治癒光』」
ローフェの身体から発せられたまばゆい光が男性を包み込む。すると、たちまち黒焦げの身体が綺麗に元通りになり、失った魔力も戻ったようだ。
こうして、ローフェの協力により重体の男性を完全回復させることに成功した。
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