第29話 再びミストラークへ

 王都の民やルエルフ魔導防衛隊、ルーフェルン城の人達の盛大な見送りの中、ルーエルを馬車で出発して3時間後に幻霧の森入口に着いた。


「ここが幻霧の森ですか。確かにあの霧の濃さはいくら森が小さくとも迷う人が出るのも納得ですね」


「濃霧だけでも厄介なのに更に幻影効果まで付いてるからな…… あ、そう言えばクアメル。ルーエル出発してからぶつぶつ何か言って結界を展開したり解除したりしてたけどどうした?」


「ああ、幻霧の森の幻対策結界を考えててね。色々試行錯誤して、1番しっくり来るやつを探してたんだよ」


 よくよく考えればルーエルに行く前に考えておけば幻霧の森を通ってもっと早く着いていただろうが、今更そんな事を考えていても過ぎたことなので仕方がない。


「さて、じゃあ森に入る前に。我らを惑わすものから守れ『対幻結界』!」


 そう唱えると、半径10mの円形で不可視の結界が張られる。物理・攻撃魔法や幻・精神系以外の防御には全く使えないが、幻を見せたり精神に異常をきたすような物や魔法に対する防御は完璧である。


 試しに森に入ってみると、幻を見せる霧が結界の範囲内には入ってこない事を確認した為、2人の元に戻る。


「この結界、無事に効果を発揮したから行こう」


「分かった」


「では、行きましょう」


 こうして、ミストラークに少しでも早く行くために、立ち入る者に幻を見せると言われている幻霧の森に入る。


 森の広さ自体は大したことはなく、幻を見せる霧も防げているが、結界の外側の濃霧のせいで視界は非常に悪い。その為当初の予定より突破時間が大幅に延びてしまったが、それでも2時間半程で突破、道なりに1時間進むとミストラークが見えてきた。


「お、ミストラークが見えてきたぞ」


「そうだね。もうすぐ…… と、その前に町上空のドラゴンを撃墜しないと」


 見た感じ、数は15頭のようだ。僕らにとっては少ないが、他の自衛手段を持たない人にとっては空中からの攻撃は恐ろしいものである。


「帝国軍、残虐な方法でルーエルでは罪もない王都民を殺ってくれやがって……」


 逃げ惑う民に降り注ぐ火焔弾、悲鳴と怒号が飛び交うあの光景が頭に浮かぶ。


 その時咄嗟にとある一撃必殺の魔法を唱えていた。


「全てをてつかせる刃、その絶対的な力をもって邪な者に裁きを禁術『零度の光』!」


 ドラゴンの飛んでいる上空に超巨大魔方陣を展開、光を照射してその範囲内の空気を含む物体を一瞬の内に絶対零度にして凍てつかせる。問答無用の一撃殺しの魔法である。


 この魔法が発動したその瞬間、飛んでいたドラゴンと竜騎士達が凍って次々に墜落し、不可視の結界に落ちて爆散する。


「フレアドラゴン達が一瞬で凍って……」


「クアメル、お前……」


 そう、あの光景を見て帝国軍が許せなかった。王都に思い入れがあるわけでもない。ただ、殺戮を繰り返す侵略者に対する怒りが沸いただけである。


「はぁぁぁ……」


 零度の光は水属性系禁術魔法の1つで、使用者の魔力の60%を種族や魔力の多さに関係なく消費する。その分威力は凄まじく、全てを焼き尽くす地獄の業火だろうと関係なくこの魔法の冷気で消滅する。これを魔法・精霊術の書の禁術の項目で見て覚えたものの、危険すぎる為訓練出来なかった。それを今回、咄嗟に発動させた。


「ドラゴンは退治したし、ミストラークに改めて入ろう」


「了解だ。そう言えば、次はどこに行くんだ?」


「うーん。まだ決めてない」


 そんな事を話しながらミストラークの町に入ると直ぐに、フュウレンが声を掛けてきた。


「女神様、先程は有難うございます。お陰さまで空中の驚異はなくなりました。地上軍の方も貴女に貰った刀を活用して撃破しました」


 成る程。あの刀が早速役に立ったと言うことか。あの時用意しておいて良かったと僕は思った。


「そうですか。それは良かった。役に立てたのならこちらとしても上げた甲斐がありますね」


「本当にありがとうございます。所でここにはどんな用事に?」


「他の国に旅に出ようと思って来ました。と言っても、まだ行き先は決まってないですが」


「成る程。それなら…… 『ティーテン王国』と言う場所はいかがでしょうか? 私も何回か行ったことありますが、とても良い所をですよ」


 船で3日程行ったところにある大規模の島国で、海産物の美味しい国、治安が良い国として有名らしい。軍事に関してもヒーティルオン帝国とほぼ同格、竜を操る技術に至っては上回ると言われている


「成る程。まあ、まだ行き先は決まってなかったですのでそこに行ってみることにします』


 こうしてティーテン王国に行き先が決まった為、準備をして船に乗りこむ。


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