ポジティブ・ネガティブ

ポジティブ。前向き。

ネガティブ。後ろ向き。

ポジティブ、ネガティブ、ポジティブ、ネガティブ。


病気=ネガティブ。

病気にかかること=ネガティブ。

膠原病=ネガティブ

皮膚筋炎=ネガティブ。


健康=ポジティブ。

健康でいること=ポジティブ。

楽しい=ポジティブ。

自由=ポジティブ。


 誰だって、病気にかかるより健康でいた方が楽しいし、自由だ。

 良く言われることだが、失って初めて気づく健康のありがたさ。

 膠原病に限らずとも、風邪だって、かかれば不自由さを感じ気持ちは落ちる。自分の体が自分の意志とは関係なく、熱で動けなくなったり、エンドレスな鼻水に悩まされれば、前向きな気持ちでいることは難しいだろう。

 体がだるいから、出かけるのはやめよう。お風呂も入らなくていいや。服を着替えるのも面倒。洗濯機を回すのも億劫。お腹は空いたけど、買い物に出る気がしない。残り物と買い置きのカップラーメンで何とか食つなぐ。栄養バランスは悪いけど、風邪という非常事態だからしょうがない。だって、熱があるし外に買い物なんかでられないのだから。

 後ろ向きな気分は、後ろ向きなサイクル・ネガティブループに入っていく。こうなると、治るはずの風邪もなかなか治らなかったりする。

 体を清潔に保ち、十分な栄養をとって静養すれば、風邪は長引かずに回復するだろう。膠原病もしかり。

 私は専門家ではないから医学的根拠はないし、相手は原因不明、治療法も確立していない難病である。だから断定はできないが、気持ちを前向きに保つことが、病状の悪化を避け、安定を保つ重要なファクターであると感じている。

 一生治らない病気を抱えたとふさぎ込むより、今日生きているという事実を認識する方が前向きだ。

 1カ月前には寝返りも打てなかったのに、今日はベッドの手すりを使って立ち上がることが出来たことを自覚することがポジティブだ。

 発病時には、食欲が全くなくなって食べる喜びも、健康な筋肉も失った。ステロイドの副作用で食欲が異常増幅し、それに比例して血糖値も贅肉も増加しても、食べる喜びを取り戻し、実際に食べ物を摂取できることは幸せだ。

 健常者と比べたら、病気を抱える自分は不自由だ。

 一方で、健常者でも世界のどこかで苦しむ難民と比べたら、今この時代の日本で生きている自分の方が自由かもしれない。

 人は他人と比較して、自分の立ち位置を自覚する。

 他と比べて優越をつけるのは、苦しくも楽しくもある。だから他者との比べっこなんてやめられたら最上だが、人間そう聖人には簡単になれない。だから比較対象を誤らないようにしなくてはならないし、比較の結果、自分がポジティブである心持に持っていくことが重要だ。

 家族も友人も職場の人も、膠原病なんかにかかっていなくていいな。そううらやましがるのは素直な感情だろう。けれどその人たちが悩みゼロと思ったら大間違いだ。癌をわずらっているかもしれないし、花粉症に毎年苦しんでいるかもしれない。病気に限らず、人間関係、金銭トラプル、誰もが何かしら大小様々な問題を抱えているものだ。

 自由のベクトルは、おおざっぱに身体的なものと精神的なものに分けられる。

 膠原病は確実に身体的な自由を奪う。

 身体的な自由を奪われたことにより、精神的な自由も侵されがちだ。

 そこで、だ。

 ポジティブループである。

 私たちは精神的自由まで蝕まれるいわれはない。

 前向きに、ポジティブでいることにより、私達は精神的自由を手放さないことが出来る。

 自分が何を感じ、何を考え、思い立つか。これは完全に自由である。自分の走ることは出来なくなっても、頭の中で走り回ることは自由だ。

 歩けない。持久力がない。ステロイドなしには生きていけない。ないものだれけ。やることがないから家でテレビとネットをダラダラとみるだけ。出かける体力なんてないし、ステロイドの副作用で顔は真ん丸。こんな顔じゃ人にも会えない。楽しくない。なんのために生きているのか。なんて慰めな自分。

 こんなネガティブな気持ちに捕らわれたら、心の中の自由はどんどん遠ざかっていく。

 短い距離なら歩ける。昨日は寝たきりだったけれど、今日は外出できた。ステロイドという治療薬があるんだ。明日はもう少し長い距離を歩けるかもしれない。ステロイドの投薬量が減ったら、職場にも復帰できるだろう。オフィスにはお洒落をしていきたい。ムーンフェイスが収まったら、また化粧をするんだ。仕事をして、お給料をもらって、好きなものを買って、食べたいものを食べて。

 ポジティブループ。

 問題は、いかに自分の気持ちを前向きに保つか。

 その答えは、私はこう考える。

 まずは人と話すこと。

 コミュニケーションをすれば、何かしらのインスピレーションを受けて停滞しがちな自分の思考に刺激を与えてくれ、頭が活性化するからだ。活動する脳は、考える脳になる。自分一人で完結してしまうと、ネガティブ思考に陥りやすい。しかし他者の意見が入ってくると、考えが広がりポジティブな考えにたどり着くことが増えると思う。

 次に自分の好きなことを見極めること。

 そしてその好きなことをすること。

 好きな活動に限らず、好きな物や人に囲まれるのでも良い。

 好き、というのはそれだけで、そのこと自体が100%前向きだ。理屈もつけられるだろうが、理屈ではない。好きだという気持ちをもつだけで、人間は前向きに、そして幸せになれる。それだけ、好きというのは偉大だ。

 難病を抱えたいまだからこそ、人と会って、話して、好きなことをして、好きなものに囲まれたい。

 それには努力が必要だけれど、病気でなくても幸せになりたいならば努力は必要だ。そして病気を抱えた今だからこそ、努力というのはしがいがあるし、その努力は報われる可能性が高い。

 自分の意志の力で前向きに心を保ち、病気と共存する。

 それが自分でコントロール可能な、最善のことと考える。

 

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