第五章 東京都不死区での決闘・その6
「あと、これは羽佐間シリーズの公式発表にはない話なんだけど、実は羽佐間シリーズって、僕たちDKと人間が戦争になったとき、DKを殺すために人間たちが開発したって噂もあるんだ」
とんでもないことまで言ってきた。由真が目を見開く。
「何それ?」
「だから、魔導師の幻覚魔法は効かないし、吸血鬼の催眠術も通用しないし、吸血鬼に血を吸われても感染しないようにつくられてるんだよ。いくら血を吸われても、血の親の命令に逆らい、起動停止するまで、特定のDKを殺戮しつづけるために製造されたんだって。ほら、ここって、僕たちみたいなDKだけじゃなくて、魔導師街や超能力者街の人たちみたいに、魔法や超能力を使える特異能力保有者だけど、生物学的には人間なんですよって人も多いから、ミサイル攻撃とか絨毯爆撃で一斉掃討できないみたいでさ」
由真が驚いた顔のまま、あらためて俺のほうをむいた。
「いまの話って、本当? 慶一郎って、私たちの敵だったの?」
「そんなわけがないだろう。さすがに都市伝説とか陰謀論だそれは」
「あ、そうなんだ」
「と思う」
「いま何か言わなかった?」
「いやべつに。それに、俺はここにくるって決まった時点で、思考パターンは静馬シリーズを基本に書き換えられてるからな」
由真とマーティの顔を見て、俺は軽く咳払いをした。
「俺たち人造人間は、DKと、人間の間で発生する事件や犯罪を阻止するためにつくられたんだ」
「ふうん。――ま、それはいいけど」
由真が少し悲しそうにした。
「私、なんだかんだ言って、慶一郎は本土からきた人造人間だから、普通の人間の仲間だと思ってたんだよ。だから、私たちとは違うんだ。そんなに強くないんだって」
「そうか」
「でも、そうじゃなかったんだね。いや、半分は正しくて、半分は間違っていたって言うべきかな。慶一郎は、私たち以上のモンスターだったんだ。そんなすごいこと、どうして黙ってたの?」
「だって、俺なんて、ただの標準型の量産型で、羽佐間園には同レベルの仲間がゴロゴロいたから、べつにすごくもなかったし、普通の人間がトレーニングして身につけた能力ってわけでもないから、自慢できるような話でもなかったし。それに由真が、普段から、平和が一番だとか、ピースだピースだって言ってるから、これ言ったら引かれるんじゃないかって思って」
「あ、私のせいか。じゃ、それは仕方ないね」
由真が俺の顔を見上げてきた。
「それはわかったけど、それで、これからどうするの?」
「そうだな」
俺は少し考えた。
「まず、由真は女子寮に戻れ。ここから先は、俺がなんとかする」
「――無茶言わないでよ」
由真が眉をひそめた。
「そんなこと言って、アンディードってホムンクルスと戦う気なんでしょ? そんな身体でなんとかできるわけないじゃん? 腕だって一本しかないんだし。警察に行こうよ」
「警察を呼んだら問答無用であの娘は破棄処分になる。だから俺が、なるべく怪我をさせないようにアンディードをつかまえて、それから借金してローンを組んで、とか、やらなくちゃならないことが山ほどあるんだよ。というか、この件は、いままでとは種類が違う。俺の本当の時間がきたんだ。さっきも言っただろう。人造人間は、DKと、人間の間で発生する事件や犯罪を阻止するためにつくられたんだ」
「あ、これ、いままでの慶一郎くんじゃない。静馬シリーズの思考パターンになってる」
俺の横でマーティがつぶやいた。
「さっき、予備バッテリーに切り替わったって言ってたけど、たぶん、それが原因じゃないかな。それで、緊急事態だってことで、普段はサポートにまわっていたはずの電子頭脳が、いま、慶一郎くんの行動理念のイニシアティヴをとってるんだよ。で、その思考パターンは機動隊に配備されている静馬シリーズが元になってるって言ってたけど、本当にその通りだ」
マーティが由真のほうをむいた。
「いまの慶一郎くんは、生体脳で行動する普通の人間じゃない。治安維持のために命がけで戦う人造人間モードなんだよ。さっきから、何かおかしいと思って見てたんだけど、違和感の原因がわかった」
言いながら、マーティが俺の顔を指さした。
「いまの慶一郎くん、静馬シリーズと同じで、蘇生してから、まったくまばたきをしてないんだ」
「説明ありがとうな」
俺はマーティに言い、驚いて話を聞いている由真に軽く手を振った。
「じゃ、ちょっと行ってくるから」
「ちょっと行ってくるからじゃないじゃん!」
そのまま行こうとした俺の右腕に由真が抱き着いてきた。振りむくと、由真が青い顔で俺を見つめている。
「いま抱き着いたら服が血で汚れるぞ」
「そんなこと言ってる場合じゃないって! いま行ったら慶一郎が死んじゃうよ!!」
「安心しろ。俺は胸に穴があいても死なないんだ」
「だからって見捨てるわけにもいかないよ! ほら、マーティもとめてよ!」
由真が俺に抱き着いたまま、マーティに声をかけてきた。俺もマーティのほうをむくと、なんだか、困ったように俺を見ている。
「悪いな。俺は行かなきゃならないんだ。マーティ、やってくれ」
「あの、慶一郎くん?」
「これは命令だ」
軽く声に重圧をこめたら、マーティがうなずいた。
「はい」
言ってマーティが由真に近づく。由真が妙な顔をした。
「マーティ、何を――」
言いかけた由真の顔に、マーティが右手をかざした。急に由真がおとなしくなる。――少しして、ぼうっとした表情で由真が俺から手を離した。
「わかった。帰る」
棒読みみたいな調子で言い、由真が背をむけた。そのままスタスタと歩いていく。とりあえず、ひとりは片付いたってことらしい。
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