第四章 謎の通り魔の正体・その9
その日、エクス学園の男子寮で私服に着替えた俺は不死街まで行った。目的は、不死街の入口に存在する人造人間のパーツ屋である。
「こんばんは」
扉をあけてなかに入ると、期待通り、アンディードがいた。本日も店番をしていたらしい。俺を見て、ニコッと笑いかける。
「こんばんは、慶一郎さん。何かお探しですか」
「あー、そうじゃなくて、ちょっと世間話をな」
俺は店のなかを見まわし、俺以外の客がいないことを確認してからアンディードに近づいた。
「今日はエクス学園で、ありがとう。おかげで暴力沙汰にならなくて済んだ。助かったよ」
「あ、あれは、気になさらないでください。私だって、大道寺様に変な疑いがかけられるのを黙って見ていられませんでしたから」
「そうか」
俺は少しほほえんだ。
「だったら、少し前に、不死街で通り魔事件が起こったって話も聞いてるかな?」
俺が質問したら、アンディードがうなずいた。
「知ってます。怖いですよね」
「それで、気をつけなって言いにきたんだよ」
カウンター越しに俺はアンディードを見た。身長も体形も顔も十歳くらいである。通り魔が狙うには絶好の標的だろう。
アンディードが嬉しそうにした。
「私が不死街で仕事をしてるから心配してくれたんですか?」
「もちろん」
今度は俺もうなずいた。
「ちょっと質問だけど、防犯対策はしてあるのかな?」
「ええ。見えないところに。詳しいことは教えられませんけど」
「そりゃそうだろうな」
俺は店内に目をむけた。ここは不死街である。スタンガンとカラーボールでは話にならない。銃器をカウンターに置いてあるのは当然として、ほかにもいろいろあるはずだ。
「もちろん、無理に教えてくれって言ったりはしないから安心してくれ」
「ありがとうございます」
俺とアンディードは、少しの間、見つめ合った。アンディードが微笑する。
「なんだか、少し疲れているみたいですね」
「まあな。ないものねだりで庶民に嫉妬してる高飛車お嬢様とか、スキンシップ感覚で人のファーストキス奪ってきた空気読めない天然ギャルとか、勝手な思いこみでストリップはじめたマッドサイエンティストとか、いろいろと困った方たちがいたもんで」
それに比べてアンディードは、ものすごく常識的に見えた。俺が一番心を許せる相手かもしれない。
そのアンディードが、少し不思議そうにした。
「でも、どうして私のことなんか心配してくれたんですか?」
「知り合った相手が通り魔のでる街で働いていたら、普通は心配するもんだ」
「私、ただのホムンクルスなんですよ?」
「俺だって似たようなもんだよ」
俺も、少しだけ笑い返した。
「それに、出生の違いなんかで差別するのは間違ってるしな。自然に生まれようが、人為的に製造されようが、きちんとした人権はあるはずだ」
「慶一郎さんはお優しいんですね」
「そういう考え方をするように思想調整されてるんだよ。俺たち人造人間は、DKと、人間の間で発生する事件や犯罪を阻止するためにつくられたんだ」
「それでも、素晴らしいと思います」
アンディードが、俺のことを、尊敬するような、羨ましそうな目で見た。
「私も、そういう人に、もっと早く出会いたかったです」
少しうつむいて言う。――何か嫌な過去でもあったのかな、と俺は思った。
「生きていれば、これからもいろいろな出会いや喜びがあるだろう。いまがマックスってわけじゃない。――そうそう、俺は外見と同じで十七歳なんだけど、アンディードはいつごろつくられたんだ?」
「私は、実は先月に」
普通に笑顔でこたえてかけて、どういうわけか、急にアンディードが表情を変えた。驚きと――これは、恐怖の目だった。
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