第四章 謎の通り魔の正体・その4
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「でさー。最低よねー」
エクス学園の教室まで行ったら、なんだか普段と雰囲気の違う会話が聞こえてきた。扉をあけると、教室のみんなが一斉に俺を見る。なんでか、少し驚いた感じだった。俺だと確認して、今度はほっとした顔を見せる。
「あービックリした」
「なんだ、羽佐間くんひとりか」
「私、てっきり」
「てっきり、なんだ?」
俺が質問したら、あわてたみたいに女子生徒が手を左右に振った。
「あの、なんでもないから」
「ふうん?」
訳がわからないまま、俺は席に着いた。由真と友達になったおかげで、俺もスクールカースト最低にカテゴライズされたらしく、ときどき仲間外れにされる。いまがそうらしい。まあ、無理して女子の会話に割りこむのもおかしいだろう。
気がつくと、マーティが俺の横に立っていた。
「こんばんは。どうしたんだ?」
「あ、それがねー慶一郎くん」
困ったみたいな感じでマーティが頭を掻いた。とりあえず、男子学生の格好で、口調も男言葉である。
「ちょっと聞いたんだけど、慶一郎くんって、大道寺様と仲がいいのかな?」
「は?」
言われて俺は少し考えた。マーティは大真面目な顔で俺を見ている。――飲食のことは言えないが、誤魔化すのも失礼だな。
「毎日、ちょっと話をする程度には縁がある」
とりあえず、そう答えておいた。極論すれば、結華にとって俺は食料である。血を吸われる以外は特に楽しく会話をするでもない。本日は少し違ったが。
「ま、一応は友達ってことになるんだろうな」
「そうなんだ」
「それ、やめたほうがいいよ」
誰かの声がした。俺が顔を上げて見まわすと、クラスの皆が俺を見ている。
「私たち、大道寺様って、エレガントな、貴婦人みたいな方だと思ってたんだけど」
「あんなことするなんて、ねえ」
女子が小声で言いだす。訳がわからず、俺はマーティを見た。マーティが、困った顔のままで口を開く。
「慶一郎くんは知らないみたいだけど、昨日の、不死街で起こった通り魔事件のことなんだよ」
とりあえず、マーティの説明を聞くことにした。
「あの通り魔事件の被害者のケンタウロス、まだ病院で療養中なんだけど、意識が戻らないんだって。死んでるわけじゃないから、ネクロマンサーのゾンビ化蘇生術や陰陽術師の御魂寄せとかイタコの口寄せで事情を聞くこともできないし。そもそも、事件が起こったのは昼間だったんだよ」
「昼間に起こった事件だって話は前にも聞いたぞ」
「うん。で、さらに追加。その事件の目撃者っていうのが、ほとんどいなかったって言うんだよ。気がついたら、不死街近くの路上に被害者が転がってたんだって。一応、近くで、顔を白いマスクで隠した不審者が見かけたって証言はあったんだけど」
「へえ」
由真に襲いかかった、あいつも白いマスクをつけていた。やっぱり同じ犯人か。
「それで?」
「だから、その通り魔は忘却の時刻を発生させたんじゃないかって話になって」
わからない言葉がでてきた。そういえば、不死街で由真が白マスクに襲われかけたときも、そんなことを言ってたっけ。
「忘却の時刻ってなんだ?」
「あ、慶一郎くんは知らないんだね。魔導師のつくる結界とか、異空間のことだよ。そこで何かやられたら、簡単に犯罪が成立しちゃうんだ。同じレベルの魔導師が現場にいたら話はべつだけど」
「そうなんだ」
そういえば、あのときは、急に街の灯りが見えなくなったからな。異空間か。あってもおかしくない話だ。
「ほかには?」
「プラスの話で、昼間でも行動できる、吸血鬼の支配者クラスがここの区長を含めて四人いるんだけど、そのうち三人は牙型を登録してたんだって。不死区設立のときに、本土側が交換条件でそういう要求をしてきたらしくて。それで、その牙型と被害者の首筋についた噛み傷を照合させてみたけど、どれとも一致しなかったみたいでさ」
「ふむ」
俺はうなずいた。だったら単純に考えて、牙型を登録していない、残るひとりの支配者クラスが犯人だってことになる。
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