第三章 復学した生徒・その1
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翌日の夜、いつものようにエクス学園へ行ったら、廊下でアンディードと出会った。
「あ、こんばんは」
「どうも、こんばんは」
俺があいさつすると、同じように、アンディードも笑顔であいさつを返してきた。
「昨日は楽しかったよ」
「ありがとうございます。また、いつでもきてくださいね」
「そのときは、お言葉に甘えさせてもらうから」
そのまま、お互い、軽く会釈をしてわかれた。普通に話していても、気持ちのいい娘だな。視界の隅で、アンディードと並んで歩いていた猫又らしい女子生徒がアンディードに話しかけていた。
「知ってる人なの?」
「昨日、私が仕事をしている人造人間のパーツショップにきたお客さんで――」
アンディードの説明を背後で聞きながら、俺は階段を登って二年十三組まで行った。――今日は知らない生徒が教室にいた。褐色の肌で銀色の髪が真っ先に目につく。由真みたいに髪を染めてるのかな、と最初は思ったが、すぐ違和感に気づいた。顔が黒人の造形じゃない。イギリスやフランス、ロシアあたりに住んでいる北欧系白人美少女の写真を撮って、色彩を反転させたみたいに見える。要するに人種がわからない。
「どうも、こんばんは」
ダークエルフかな、と思いながら、俺は近づいて声をかけてみた。褐色美少女がこっちを見て、あれ? という顔をする。
「こんばんは。転校生?」
「ま、そうだったんだけど。羽佐間慶一郎って名前だから」
俺は美少女が座っている席を見ながら、少し考えた。そういえば、この机は俺が転校してきたときからあったな。誰も座ってなかったが。
「俺と同じ転校生ってわけじゃなさそうだな」
「僕は、前からここの生徒だよ。ちょっとあって休んでたんだけど。マーティ黒川って名前だから。よろしく」
「あ、そうだったんだ。こっちこそよろしく」
「それで、えーと、わかると思うけど」
言いながら黒川が自分の頭を指さした。銀色の髪の隙間から、長く尖った耳がぴょんと顔をだす。それがピコピコと左右に動いた。
「僕、ダークエルフなので」
「あ、やっぱりな。そうなんじゃないかって想像はしてた。それにしても、マーティ黒川か。日本の名字もあるんだな」
「こっちで住民票を獲得するとき、僕たちでつくったんだ。白い連中は白森とか白沢なんて名乗ってるよ」
「わかりやすいネーミングだな」
名は体を表すとはこのことか。感心する俺を、黒川が興味深げに眺めた。
「それで君は? やっぱり、普通の人間じゃないんだろ? 勇者系の転生かな?」
「俺は人造人間なんだ」
「――は?」
黒川が驚いたような顔で、俺を上から下まで見た。結華や由真と同じ反応だな。
「じゃ、ホムンクルスなのかな?」
「そっちじゃない。俺は本土でつくられたんだ」
「あ、魔道系じゃなくて、科学でつくられたタイプか。へー。ちょっと失礼」
黒川が立ち上がり、不思議そうに俺の顔をのぞきこんだ。
「悪いけど、機械とかロボットって感じじゃないねー」
「俺は生体機械系なんだよ。ファインセラミクス骨格とハイブリッドDNAで製造されてる。血液も流れてるし、外見で判断するのは難しいだろうな」
「そうなんだ。そういえば、羽佐間慶一郎くんだったよね。じゃ、羽佐間シリーズか。――羽佐間シリーズ!?」
マーティが、驚いたというか、何か気がついたように目を見開いた。あ、これは羽佐間シリーズを知っている顔だな。
「そうか。君、羽佐間シリーズなのか。名前は知ってたけど、見るのははじめてだね」
「俺もダークエルフを見るのははじめてだよ」
「そうか。ま、本土じゃ、あんまりDKが胸を張って歩いたりはしてないだろうしね」
言って、黒川が考えるような顔をした。
「じゃ、あれだ。君は、ターミネーターサイバーダインT-800だ」
少しして、すごいことを言ってきた。
「いや、いきなりターミネーターとか言われても」
「だってそうだろ?」
真顔で言ってくる。それもそうかな、と俺も考えた。少なくとも、フランケンシュタインの怪物よりは近いだろう。
「じゃ、それでいいや。俺はターミネーターだってことで。ただ、そのへんの人間を片っ端から撃ち殺したりはしないから安心してくれ」
「もちろん、そこはわかってるから。それにしても、骨格はファインセラミクスか。ふーむ」
笑顔で俺を見ながら、黒川が軽く首をかしげた。
「すると、君の細胞を少しもらって、培養したら、骨のない、タコみたいなクローンができるのかな」
「そのときは、俺と同じDNAパターンの、普通の人間ができるはずだ。単純なクローン技術でコピーできるようにはつくられてないって聞かされてる。それはいいけど、エルフなのに、魔道だけじゃなくて科学にも興味があるのか」
「僕はダークエルフだから。それに、僕は古臭い魔道なんかより科学が好きなんだ」
言って、笑顔のまま、黒川が頭をかいた。
「それで、知り合いの魔導師のところで、錬金術の応用でプルトニウムをこっそり生成してたら、思いっきりバレて停学に」
「は? プルトニウム?」
とんでもないことを言ってきた。
「戦争でもする気だったのか?」
「そういうわけじゃないけど、ちょっと興味があって。ほら、そういうのって、なんか、マッドサイエンティストっぽくて格好いいし」
「マッドサイエンティストって格好いいか?」
俺はあきれた。ちょっと興味があっただけでプルトニウムをつくるとはすごい娘である。それで休んでたのか。あいかわらず、黒川は笑顔のままだった。
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