第二章 謎の通り魔と遭遇・その5
「やっぱり強そうだよね」
警官ふたりが過ぎ去ってから、由真が俺にささやいてきた。
「それに、おっかない顔してるし。あの人造人間、普通より少し大きいくらいなのに、三メートル級のストーンゴーレムと正面から殴り合いやって、一歩もひかないんだって。本土の科学ってすごいよね。あと、デパートとか、でっかい建物に行くと、べつバージョンの、ガードマンみたいなのがいるし」
「警官隊や機動隊に配属されているのは、静馬シリーズって言う、暴徒鎮圧用の人造人間なんだ。いかつい顔なのはそのせいだよ。ガードマンタイプみたいなのって言うのは、たぶん雁田シリーズのことだな」
「ふうん。――同じ人造人間でも、慶一郎とはずいぶん違うよね」
「そりゃ、もともとの設計思想が違うからな。――それにしても、不死街って、やっぱり夜も明るいんだな」
俺は由真から目を逸らし、周囲を見まわした。あちこちの店からLEDとネオンサインとレーザーが飛び交い、青い鬼火と赤い狐火と黄色い人魂がフラフラ漂っている。反対側の通りを歩いている青白い顔の女性は夜なのにサングラスをかけていた。あれは結華と同じ吸血鬼だな。明るすぎるのも考えものである。
「で、このあと、どうする? またショッピングモールに行く? それとも映画でも見る? カラオケ?」
「由真に任せるよ。俺、このへんのこと、まだ全然わかってないし」
「へえ、いいの?」
「由真は、自分のやりたいことをやるんだろ? だったら、それをやればいい。俺、付き合うから」
「へえ、ありがとう。じゃ、遠慮なくそうさせてもらうから」
言いながら、ひょいと由真が手を伸ばして、俺の腕と組んだ。学校でのマーキングのつづきらしい。
「そうだね。さっき、クレープ食べて出費しちゃってるから、今日はお金を使わないでウインドウショッピング――うん?」
言いかけ、由真が不思議そうに俺を見上げた。
「慶一郎、ひょっとして学校が終わったあと、お風呂に入った?」
「は? そんな暇あるわけないだろ」
「そう? なんだか、私のつけた匂いが薄くなってるんだけど」
「それは、俺が学生服から私服に着替えたからじゃないか?」
「あ、そうか」
由真も納得したような顔をした。で、そのまま、少し考えこむ。
「そうだな。じゃ、ちょっときてよ」
いきなり由真が俺をひっぱった。なんだ? 訳がわからないままついていくと、由真はショッピングモールのあるほうへ歩いていく。やっぱりウインドウショッピングをするのかな、と思っていたら、由真はショッピングモールの入口を素通りして、そのまま俺を駐車場までつれていった。
「うーん、ここなら、見てる人はいないかな」
駐車場の真ん中に立ち、由真が青く輝く目で周囲を見まわした。確かに、照明の明かりの下に見えるのは動かない車ばかりで、人の気配はない。
「なあ由真、何するんだ?」
「何って、私の匂いをつけるんだけど?」
「あ、そうか。それはいいけど、なんでこんなところで」
「ほら、慶一郎、しゃがんで」
俺の質問をさえぎって由真が言ってくる。訳がわからないまま、言われたとおりにしたら、由真が自分の頭に手を伸ばした。カチューシャ代わりのサングラスを外す。
「ちょっと、これ持ってて」
「おう」
返事をしながらサングラスを受けとったら、由真が、自分の着ている赤いTシャツに両手をかけた。そのまま脱ぎはじめる!
「おいおいおい! 何をするんだ!?」
「だから匂いつけだって言ってるじゃん?」
「それは言ってたけど、いきなりそんな」
「べつに気にしなくていいよ。ほら、ブラジャーって、水着のビキニと隠してる面積が同じじゃん? だから、プールで泳ぐときと同じだって思ってれば、どうってことないし」
「そりゃ、理屈ではそういうことになるけど、それ、女子が言うセリフじゃないぞ」
「ほら、これも持ってて」
俺の話なんか聞いていない調子で、ブラジャー姿の由真がTシャツも渡してくる。勢いに飲まれて受けとると同時に、由真が抱き着いてきた。俺の顔に、規格外の爆裂バストがむにゅーんと押しつけられてくる! うわ、暖かいとか柔らかいとか、俺にもいい匂いがわかるとか、なんか余計なことを考えてしまった!!
「ちょちょっと、これはいくらなんでも」
「だって、服の上から匂いつけしても、すぐ匂いが薄くなっちゃうし。今日みたいに、服を着替えたら意味ないし。だから、肌と肌をくっつけて、私の匂いを直接つけようと思って。――あ、すごい。慶一郎も積極的だね。そうやって激しくこすり合わせると、匂いが強く染みつくから。あはは。おもしろーい」
「積極的にこすり合わせてるんじゃなくて嫌がってるんだ! はーなーれーろー!!」
俺はなんとかして、自分の頭から由真を引き剥がした。
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