第二章 謎の通り魔と遭遇・その6
「いいか、あんなのセクハラだぞ」
とにかく由真に服を着せて、ショッピングモールのなかまでつれて行った俺は、ベンチに座りながら小さくつぶやいた。やっぱり、異種族間でやりたいことを好きにやるというのは、いろいろと問題がでてきそうである。由真も俺の隣に座って、困ったみたいに俺を見上げていた。
「ごめんね慶一郎。そんなに嫌だったんだ。私は、大きい赤ちゃんを抱っこしてるみたいで、楽しかったんだけど」
「あれが楽しかったのかよ」
俺はあきれた。
「言っとくけど、本土であんなことやったら捕まってるからな」
「だってここは不死区だし」
言われてみれば当然の返事をしながら、由真が俺の腕に自分の腕をからませてきた。顔の次は腕に胸があたってるんですけど。
「じゃ、これはいい?」
「まあ、それくらいなら、OKかな」
あとになって冷静に考えたら、これだって相当に積極的なはずなんだが、さっきの行動が衝撃的すぎて、このときの俺は感覚がおかしくなっていた。
「じゃ、これは?」
言って、由真が俺から腕を離し、正面から顔を近づけてきた。俺の唇をペロっと舐める。またかよ。――納豆ヨーグルトクレープを食べた後だったから、うっすら納豆臭いんだけど、それはいいとしよう。
「あのな。それはキスと言って、好きな相手にする行為だ。そういうのはもうなしだぞ」
「いいじゃない。前にもしてるんだから、一回するのも二回するのも大して変わらないし。それに私だって、好きな相手じゃなかったら、こんなことしないし」
「ふうん」
じゃ、俺のことは好きなわけか。まあ、好きと言っても、友達として好きだって意味だろう。由真は狼人間だし、スキンシップのレベルが人間とは違うのだ。――考える俺のことを、なんだか由真が急に真面目な顔で見つめてきた。
「あのさ、慶一郎って、彼女が欲しいって思ったりしないの?」
妙なことを訊いてきた。
「彼女って、俺に?」
何を言ってるんだと思って聞き返したら、由真が大真面目な顔でうなずいた。
「慶一郎って、肉でできてるんだから、子供がつくれるじゃん?」
「あ、それは、そういうことになってる」
何しろ、ハイブリッドDNAだからな。俺の返事を聞いて、由真が俺の顔をさらにのぞきこむようにしてきた。
「ということは、恋愛だってできると思うし。まあ、子供ができなくても恋愛したってかまわないとは思うけど」
「まあな。結婚も、一応は認められてるし」
「へえ、すごいじゃん」
「そういうレベルの設定で製造されてるからな。ただ、実際に結婚して子供をつくった羽佐間シリーズって、いないんじゃないかな」
後半のセリフは独り言だったんだが、俺の顔を見ていた由真が不思議そうにした。
「どうして?」
「俺は恋愛や異性に、あんまり興味を持たないようにできてるんだよ」
俺は自分の頭を指さした。
「俺は羽佐間シリーズで、普通の人間より頑丈にできてる。おまけに生体機械系で、普通の人間と同じように生まれて成長するし、普通に考えることもできる。これで普通の人間とまったく同じように恋愛や異性に興味を持たせると、思春期になったとき、性犯罪に走るんじゃないかって危惧されてな。それで、あんまりそういうことを考えないように、電子頭脳サイドから生体脳サイドにストッパーがかかってるんだ。賢者タイムが標準状態だとか羽佐間園で言ってたっけ」
「あ、なるほどね。それでか」
俺の顔を見ていた由真が、なんだか残念そうな顔をした。
「まあ、それでもいいや。慶一郎と私は友達だから」
「そうか」
俺も返事をして、ベンチから立ち上がった。
「じゃ、ウインドウショッピング、行くか。それならなんの問題もないから」
「うん、わかった」
俺の提案に、由真も笑顔で立ち上がった。
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