第一章 東京都不死区への転校・その3
「あ!」
大道寺が驚きの声を上げながら両手をひいた。とはいえ、人類を超越した打撃を正面から喰らったのである。普通ならただで済むわけがない。
《おー痛え。あのな、暴力は》
と、言おうとして、俺は声がでないことに気づいた。見えている景色も傾いている。こりゃ、首の骨が折れたかずれたかしたな。俺は両手で自分の頭を押さえた。軽く左右に動かす。きごん。よし、これでいい。
「あの」
声のしたほうをむくと、大道寺は気まずそうにしていた。
「いまのは――」
「ただの事故だ。気にしなくていい。それより、暴力はなしにしないか」
俺は大道寺の顔を見ながら言った。
「さっき、原田も言ってたけど、世のなかピースだよピース」
「あのさ」
俺の言葉とはべつに、ちょっと不安そうな感じで背後の原田が訊いてきた。
「えーと、羽佐間くん? 助けてくれてありがとう。それは嬉しかったけど、いまの、平気なの? なんか、首が、ごき、とか派手な音を立ててたけど」
「あ、俺は――」
「羽佐間慶一郎は人造人間ですから」
俺が言うより先に、大道寺が説明した。なんでか偉そうである。
「わたくしのお爺様が、本土から呼んだのです」
「あ、本土からきたんだ?」
原田が興味深そうに俺を見上げてきた。そのまま、少し眉をひそめる。
「でも、本当に人造人間? 私には、すっげー人間そっくりに見えるんだけど」
「羽佐間シリーズは生体機械系だからな。バイオテクノロジーとサイバネ技術で製造されてるんだ。骨格はファインセラミクスで、ハイブリッドだけど、一応は遺伝子もあるし、身体のなかには血も流れてる」
「あ、そうなんだ」
「それから、俺の思考パターンは羽佐間シリーズのままじゃなくて、静馬シリーズのものに書き換えられてるから」
「――ふうん?」
これも一応説明したら、原田がちょっと首をかしげた。
「羽佐間シリーズだったり静馬シリーズだったり、なんだかややこしいね。それに私、人の名前を覚えるのって苦手だし。慶一郎って、下の名前で呼んでいい? 私のことは由真でいいからさ」
「べつにかまわないけど。じゃ、よろしくな、由真」
とりあえず、俺は原田――じゃなくて由真とあいさつしておいた。
「あ、それから大道寺」
「わたくしのことは結華とお呼びなさい!」
大道寺に声をかけたら、いきなり大道寺――じゃなくて結華が言ってきた。
「わたくしも、あなたのことは慶一郎と呼びますから」
結華が由真を横目でにらむみたいにしながら言う。由真が俺を下の名前で呼ぶから対抗してるらしい。視界の片隅で、由真が頭をかいた。
「じゃあ、私も結華って呼ぶから」
「あなたには言ってません!」
金切り声を上げるみたいに由真へ言い、そのまま結華が俺の正面に立った。
「それで? わたくしに声をかけて、何かご用かしら? 言っておきますけれど、お父様が考えているようなことには――」
「もうすぐホームルームがはじまると思うんだけど、教室に戻らなくていいのかと思って」
「あ!」
言われた結華が背後を振り返った。壁にかけてある時計を確認する。
「――そうですわね。そろそろホームルームですわね」
渋々って感じで結華がうなずいた。そのまま背をむけて教室からでて行くとき、結華がちらっと俺のほうをむいた。
「お父様が考えているようなことにはなりませんから」
さっき、言いかけたことを言って、あらためて俺から背をむけた。たぶん、俺の血なんか吸わない、という意味だったんだろう。
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