序章 大道寺結華との秘密の吸血・その2
「お願いです慶一郎、さあ、早く服を脱いでください」
「わかった。ちょっと待っててくれ」
俺は学生服のボタンを外した。学生服を脱ぎ、ワイシャツの首筋のボタンも外すと同時に結華が手を伸ばしてきた。
「いいですか慶一郎? ちゃんと、目をつぶっているのですよ」
赤い顔で言いながら、結華が俺の身体に腕をまわしてきた。ちなみに結華は、バスト、ウエスト、ヒップすべて同じという凹凸ゼロの幼児体形なんだが、それでも抱き着かれたら、やっぱり少しは妙な気分になる。もっとも、結華はそんなことさえどうでもいいみたいだったが。
「慶一郎」
ひんやりした吐息を俺の肩に吹きつけながら言い、結華が俺の首筋に自分の唇を押しつけてきた。
「ああ、いつ触っても、柔らかくて綺麗な首筋。この下に、温かくて赤い血が流れているのですね」
結華が口を離しながら、小さくつぶやいてきた。なんか、セクハラを受けている気分である。まあ、これが俺の仕事なんだから仕方ないんだが。
「では、行きますからね」
結華が言うと同時に、プチっと言う感触が俺の喉元に立った。俗に言う、吸血の口づけである。
「はあ、ああ、うう、うん」
そのまま、少し我慢していたら、抱き着いていた結華の手が急に力を増した。ピクンピクンと痙攣するみたいに震えだす。
今日はこれで終了だな。そのまま、しばらく我慢していたら、結華の唇が俺の首筋から離れた。それでも俺から手を離さず、結華がぽーっと俺を見上げてくる。なんか、夢うつつって感じだった。
「もういいか?」
確認しながら、俺はそっと結華の手から離れた。もう出血は止まっている。一日放っておけば、傷もふさがるはずだ。学生服に袖を通しながら横目でちらっと見ていたら、心ここにあらずって顔をしていた結華が、少しずつ表情をとり戻していった。しばらくして、はっとした感じで赤面する。
「慶一郎! また、わたくしのことをジロジロと見ていたのですか!?」
「いや、ジロジロとは見てなかったよ。ただ、ずーっと目をつぶっている状態で、服を着れるほど器用でもないし」
言い訳しながら俺は上着のボタンを留めた。――吸血鬼に血を吸われた人間は吸血鬼化するのだから、要するにやってることは仲間を増やすことであり、生殖行為ということになる。
ただ、それだけに、吸血行為を見られるのは、結華にとってはすさまじく恥ずかしいことなんだろう。
「いいですか、このことは本当に他言無用ですからね。特に、あのナイトチャイルドには」
時間を置き、正常な思考形態に戻ったらしい結華が俺をにらみつけてきた。大丈夫だって言ってるのに、俺も信用されてないらしい。
「安心しろ。誰にも言わないから」
学生服のボタンをとめ、俺は結華を見下ろした。結華も俺を見上げる。
「どうしました?」
「いや、吸血鬼も大変なんだな、と思ってさ」
「そのために、あなたがいるのではありませんか」
「ま、そうなんだけど」
俺は血を吸われても感染しないし。人けがないことを確認して、こっそり女子更衣室を抜けだした俺は結華と一緒に教室まで戻ることにした。
「それでは、わたくしは、こちらですので」
結華とわかれ、俺は教室に戻った。
「お帰り。長かったね」
「ま、いろいろあってな。さ、授業だ」
待っていた由真に言い、俺は席に着いた。ほかにも、油すまし、グレムリン、妖狐、ラミアや雪女といった異種(Different Kind)――通称DK――が席に着いていく。昔は亜人なんて呼ばれていたそうだが、妖怪や竜族は人間の亜種ではない。言葉に語弊があるという理由から、こういう呼び名で統一されることになった。
「みんな、きてるわね」
少しして担任の紅葉先生が入ってきた。この人は魔導師である。ここは東京都不死区。東京23区から一〇〇〇キロ離れた太平洋上に設立された人工島。超人類や妖怪が生活する、24番目の特別地区なのである。
そして俺は、サイバネ技術を駆使して製造された生体機械系の人造人間だった。
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