第26話「恋敵」

  


   26話「恋敵」





 光哉が案内した場所は、清潔感があるおしゃれなレストランだった。

 白は知ることはなかったが、そこは光哉としずくが再会した場所でもあった。

 店内に入ると通されたのは店の奥にある個室だった。VIPルームと標示があったを見て白は少し驚いたが、見て見ぬ振りをして誤魔化した。


「おすすめはピザなんですよ。ちゃんと窯もあるんですよ。」


 光哉はメニューを見ないで数品を店員に注文をすると、白に視線を向けた。


「さて、話をしましょうか。白さん。」

「名前、知ってるんですね。」

「雨・・・しずくちゃんに聞いたのでね。あ、俺は伊坂光哉です。」

「・・・しずくさんの、初恋の相手ですよね。」


 白は直球をぶつけるが、光哉本人は笑顔で「そうです。」と返事をされてしまう。光哉の余裕を感じてしまい、白の気持ちが荒れていた。


 何故自分の前に、彼が会いに来るのか。

 理解はしていたが、それを知りたくはなかった。

 もう彼女は彼のものになっているのかもしれない。

 自分は彼女から距離を置こうとしていた。

 でも、それが出来なかった。

 だからこそ、夜遅くまで公園にいる彼女を見守っていたのだ。


 公園で待っている姿を見て、自分を待っているのだとわかっていた。

 何度も彼女に話を掛けようと迷った。

 だが、それを躊躇ってしまう。

 それには理由があった。

 しずくが待っていてくれるのは、自分とのけりをつけたいのではないかっと、白は思っていた。

 初恋の相手と付き合うようになり、白との関係を終わらせたいからではないかと。

 しっかり者の彼女の事だから、自分の事を考えてくれているのはわかる。


 自分の事を好きでいてくれると思っていた。

 だけれども、初恋の相手との話を楽しそうに話す彼女を見て、それは勘違いだったと思ってしまった。

 キラキラとした笑顔を見せるのは自分だけではなく、違う男だと思うだけで、自信がなくなってしまうのだ。


 10歳も年下の男は相手にもされないのか。

 彼女を信じたい気持ちが、自信と共に消えていきそうになるのを感じていた。


「俺も本題から話します。俺は彼女が好きなんです。諦めてくれませんか?彼女は、あなたに囚われすぎている。」


 光哉は、先ほどからのニコニコとした表情から一転、真剣でするどい眼で、白を見ていた。

 白はその強い視線から、目をそらさずに見据えながらも、彼の言葉を驚いた気持ちで聞いていた。

 彼の言葉を聞く限りでは、まだ彼と交際をスタートしたとは思えなかったし、しずくが自分をまだ想ってくれているのではと思わせるものだった。

 考え込んでいる白を、少しの間待っていた光哉だったが、すぐに話を続ける。


「彼女の事を心配で見守っているのはわかりますけど。見ているだけでは、何も進まないと思いますよ。」

「それで、僕と彼女が付き合う事になったらどうしますか?」

「そんな自信があるのかな?」

「僕は・・・少し自信がなくなってました。けど、彼女を信じてるので。」


 光哉の鋭い視線に応えようと、白もしっかりと彼の目を見ながらそう強く言った。

 すると、光哉は驚いた表情を見せて、そしてすぐにその顔が変わった。

 何故か、苦しげに笑っているのだ。

 それは切なさも感じられるものだった。


「信じてる・・・か。」


 そう独り言のように呟くと、苦笑しなから下を向いて何かを考え込んでいた。

 少しの時間、そうしていたが、顔を上げるとそこにはその悲しげな顔は見られなかった。


「確かに俺は雨ちゃんを信じてられなかったな。」


 白は、もちろん、その意味をわからずにいた。

 だが雨ちゃんというのは、しずくだと理解出来たし、何かしずくに対して罪悪感を感じているというのもわかった。

 ただ話しを聞くことしか出来ずにいたが、しずくを諦めるはずもなかったので、この場を去るわけにもいかなかった。


「雨ちゃんを尾行する時間があったんだ。俺の昔話に少し付き合ってくれないか。」


 そういうと、光哉は過去をゆっくりと語り始めた。

 恋敵の過去話など聞くのは嫌だったのが正直な話だった。

 だが、彼女をもっと知りたい、という気持ちにが勝り白は、その話を付き合うことにした。

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