第137話 金の斧、銀の斧(表)

 緊急対策会議。


 秘密裏におこなわれるそれに参加するのは三人。


 課長。

 魔法使い(PG:男)。

 そして自分だ。


「それで何が原因だと思う?」


 課長が自分と魔法使い(PG:男)に尋ねる。

 だが、思い当たることはない。


 ちらり。


 魔法使い(PG:男)を見るが、自分と同じように見える。

 こういうときに沈黙するのは冒険者(サラリーマン)ではない。

 なにかしら応えなければならない。


「イメージチェンジじゃないでしょうか?」

「ウケ狙いだと思います。ツッコミを待っているのでしょう」


 前者は魔法使い(PG:男)、後者は自分だ。

 自分は自分も前者は考えた。


 印象操作(イメージチェンジ)。


 それは高度な技術を必要とする。

 なにせ、他人が持つ自分の印象を操作するのだ。

 いわば、精神操作だ。

 高度な魔法を駆使すれば可能かも知れないが、あれは違うと思う。


 精神操作をするなら、自分に有利になるようにするだろう。

 だが、あれは違う。

 もし、それを狙っているのだとすると、失敗している。


 なぜなら、スーパーサ○ヤ人だから。


 冒険者(サラリーマン)として、あれはダメだろう。

 あんな姿でモンスター(お客様)の前に姿を現せば、相手の攻撃力を高めるだけだ。

 下手をすれば、パーティーが全滅(お仕事を失注)してしまう。


 だから、自分は後者だと考えた。

 後者なら、あの姿は一時的だ。

 しかも、話は内輪で閉じる。

 こちらの方が、まだ救いがある推測だろう。


「そうか・・・。だか、どちらも推測だろう。それとなく話を聞き出してもらえるだろうか」


 課長も難易度の高いミッションを出してくれる。

 断ることもできるだろう。

 その場合、課長は直接、魔法使い(PG:ベテラン)に聞くに違いない。

 だが、それでは人間関係に亀裂を入れることになりかねない。

 上の者からの注意は耳に痛いものだ。


「一応、やってみます」

「なんとか聞いてみます」


 そう答えて席に戻った。


☆★☆★☆★☆★☆★


「・・・・・」

「・・・・・」

「?」

「?」


 カタカタカタカタ・・・・


 ぴりぴりと痺れるような緊張感が漂っている。

 理由を知らない後輩と魔法使い(PG:女)は不思議そうな顔をしている。

 周囲には魔法使い(PG:ベテラン)が魔法を唱える(キーボードを叩く)音が響いている。


「えっと・・・」


 おお。

 まずは、魔法使い(PG:男)が行くようだ。

 同じ魔法使い(PG)として責任を感じているのかも知れない。


「ちょっとして、イメージチェンジしました?」


 なんの捻りもなく、ずばりと行ったな。

 だが、嫌いではない。

 さながら、銀の斧を振り下ろすかのようだ。

 一刀両断。

 上手くいけば、まきを割るかのように、答えが得られるだろう。


「ん?特に何もしていないけど」

「そ、そうですか・・・」


 だが、空振りだ。

 銀の斧は、まきから逸れて、地面に突き刺さった。

 仕方が無い。

 こういうときは勢いだ。

 間を置かずに、本命である金の斧を振りかぶる。


「ひょっとして、床屋に行きました?髪型が変わっているようなので、それでイメチェンに見えたのかなと」


 言ってから気づいたが、自分の聞き方も直接的だな。

 まあ、いい。

 口から出た言葉は、飲み込むことはできない。


「行っていないけど・・・!」


 なんのことか分からないといった様子で、頭をかこうとする魔法使い(PG:ベテラン)。

 そして、気づいた。


「・・・ちょっと休憩に行ってくる」


 そう言いながら、席を経った。


☆★☆★☆★☆★☆★


 数分後。

 魔法使い(PG:ベテラン)が戻ってきた。


「今朝、ちょっと寝坊して」


 それだけを言った。

 だが、それで充分だ。

 全てを察した。


 戻ってきた魔法使い(PG:ベテラン)の髪型は、昨日までと同じになっていた。

 要するに、そういうことだろう。

 確かに、癖がつきそうな堅そうな髪質だ。


 ミッションコンプリート。

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