第138話 シンデレラ

 シンデレラ。


 灰かぶりとも言われる童話だ。

 だが、この話は子供向けの御伽噺ではない。

 古代の高度な技術を現代に伝える古文書だ。


 馬車と化したネズミとカボチャ。


 これは遺伝子操作で巨大化した動物と植物を指す。

 しかも、馬車ということは、自在に操作できるということだ。

 つまり、人間と意志疎通できるように、動物に高い知能を与えたということだ。

 それだけではない。


 ガラスの靴。


 王子が娘を見つけるために使用したアイテムだ。

 ガラスであることは、大した問題ではない。

 現代技術でも、硬度を高めたガラスを作ることは可能だ。

 防弾ガラスは銃弾すら防ぐ。


 ただし、それだけでは、履き心地は悪いだろう。

 それも、現代技術で解決できる。

 ガラスにこだわらなければ、透明で柔軟な材質はいくらでもある。


 重要なのは王子が娘を発見したというところだ。

 靴のサイズなど、精々、数センチの違いだ。

 同じ靴を履ける人間など大量にいる。

 にもかかわらず、王子は娘を特定するに至った。


 おそらくは、靴の僅かな付着物で遺伝子検査をしたに違いない。

 遺伝子検査自体は現代でも可能だ。

 だが、わずかな時間で大量の人間を検査するとなると話は変わってくる。

 古文書によると、靴を履く程度の時間で一人分の検査を終えたらしい。

 しかも、かなりの高精度でだ。


 ここまででも古代の高い技術力を思わせるが、現代の技術力でも足がかりは掴めている。

 しかし、現代技術では足元にも及ばないところも記されている。

 12時に魔法がとけてしまう。


 つまり、物質変換だ。


 化学反応で合金を作るのとは話が違う。

 まったく別のものに作り替え、さらに元に戻すのだ。

 それも一瞬で。


 いったい、どれほど高度な技術が使われているというのだろう。

 想像もつかない。


「ん~~~~~!」


 用事を終えて席に戻ると、後輩が天を仰いでいた。


「えっと、何してるの?」


 腕を伸ばし、つま先まで立てている姿に、さすがに声をかける。


「資料が取れません~」


 どうやら、棚の上の方に置いてある資料を取ろうとしているようだ。


☆★☆★☆★☆★☆★


「文明の利器を使おうよ」


 というほど高度な道具ではないが、棚の横に脚立が置かれている。

 確かに棚に隠れていて見つけづらいが、明らかに届かないところに手を伸ばすより、台を探す方が先だろうに。


 カシャン。


 金属音を立てて、折りたたみ式の脚立を組み立てる。


「ありがとうございます」


 そう言って、後輩が脚立に足をかける。


「押さえるよ」


 脚立は安定しているが、乗る人間がふらつくこともある。

 すぐにフォローできるように、横に来る。


「ん~~~!」


 腕を伸ばすと、指は届くが、掴んで引き抜くのは難しいようだ。

 後輩がつま先を伸ばそうとする。


「ストップ、ストップ!危ないって!」


 慌てて止める。


「代わりに取るよ」


 交代して自分が脚立に乘る。


「じゃあ、押さえます~」


 後輩が脚立を押さえる役に回る。


「あ、下で資料を受け取りますよ」


 先ほど声を上げたのが気になったのか、魔法使い(PG:女)がやってくる。

 資料を持ったくらいでふらつかないとは思うが、心遣いは素直に受け取っておこう。


「よろしく」


 腕を伸ばして資料を取る。

 自分も背が高い方ではないが、それでも後輩よりは高い。

 つま先を伸ばさなくても、余裕で資料を引き抜くことができた。


「あ!」

「わっ」

「きゃっ」


 棚の上にあり、滅多に読まれることがない資料。

 当然、埃も溜まっている。


 ふわふわ・・・ぽふっ。


 思いのほか大きな塊が、灰のように上から降ってくる。

 そして、それは下にした人間に降り積もる。


「ごめんごめん!」


 慌てて、二人の頭に乗った塊を、そっと払う。

 細く、力を入れれば切れてしまいような髪の表面を、注意深く撫でるように払う。


「・・・ありがとうございます」

「役得です~」


 埃を落としたことを謝罪したのだが、なぜかお礼を言われた。

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