第136話 金の斧、銀の斧(裏)

 冒険者(サラリーマン)にとって、見た目は大切だ。

 と言っても、美醜を指しているわけではない。


 装備のメンテナンス(スーツのクリーニング)。

 身体のメンテナンス(風呂に入る)。

 心のメンテナンス(睡眠を取る)。


 これはモンスター(お客様)への攻撃力を高めることに繋がる。

 だから、見た目が大切なのだ。

 これを怠るものは、冒険者(サラリーマン)としては三流だ。


「あはよう」


 朝。

 ギルド(会社)に魔法使い(PG:ベテラン)がやってきた。

 時刻はクエスト(お仕事)開始直前。

 これはまあ、いつも通りだ。


 本当は暗黙の掟(5分前行動)に従うのがベストだとは思うが、まあそれは個人の裁量だろう。

 それはいい。

 それはいいのだが。


「おはようござ・・・います?」


 返す挨拶が途中で止まりそうになったのは、自分の責任ではないはずだ。

 むしろ、止まらなかったについて、自分で自分を褒めてやりたい。

 表情に出たのも一瞬だったはずだ。


「おはようございます~?」

「おはようございます・・・!」

「おは・・・・・」


 後輩。

 魔法使い(PG:男)。

 魔法使い(PG:女)。


 経験の浅い三人は、どうしても表情や声に出てしまっている。

 だが、三人を責めるつもりはない。

 相手がうわてだっただけだ。


 スーパーサ○ヤ人が、そこにいた。


☆★☆★☆★☆★☆★


「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・えっと」


 誰も指摘しない。

 どうする。

 経験の浅い三人に任せるのは荷が重い気がする。

 自分が行くべきか。


 ぽんっ。


 葛藤する自分の方に手が置かれる。


「休憩にいかないか?」


 声をかけてきたのは課長だ。

 視線で分かった。

 目的は休息ではない。


「わかりました」


 この場では話せないということだろう。

 多くは口にせず、課長に付いて行く。

 途中、課長は魔法使い(PG:男)にも声をかけた。


☆★☆★☆★☆★☆★


 場所は休憩所の端。

 ただし、誰かがきたら、すぐに分かるように、見晴らしのよい位置だ。


「彼は何か悩み事でもあるんじゃないだろうか?」


 課長が本題を切り出した。

 誰のことを指しているかは分かる。

 魔法使い(PG:ベテラン)だ。


「あんなに髪の毛を逆立てて。怒髪天を衝くというやつじゃないだろうか」


 課長が言う。

 なるほど、確かに一昔前の分析結果だとそうなるか。

 だが、現代の分析結果では、もう1つの答えを出すことができる。


『いえ、あれはスーパーサ○ヤ人です』


 自分と魔法使い(PG:男)の声が被った。

 そうか。

 やはり、そう思うか。

 色は金色ではないが、まちがいなくアレだろう。

 自分の分析結果に自信を持つことができた。


「・・・・・聞いたことがあるな。そうか、スーパーサ○ヤ人か」


 課長も知識としては知っていたらしい。

 1を聞いて、10を理解した。


 もっとも、怒髪天を衝くのも、スーパーサ○ヤ人も、きっかけは同じだ。

 なにかがあったのだろう。

 昨日までの魔法使い(PG:ベテラン)は、あんな姿ではなかった。


 そして、課長がなぜ魔法使い(PG:男)を呼んだのかも理解した。

 クエスト(お仕事)に関係することなら、後輩を呼ぶことが多い。

 だが、プライベートのこととなると、場合によっては異性がいると話しづらいこともあるだろう。

 それに、魔法使い(PG:男)はクエスト(お仕事)のことでも知っていることがあるかも知れない。


「それで何が原因だと思う?」


 緊急対策会議が始まった。

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