第134話 赤ずきん

 冒険者(サラリーマン)にとって、食事は身体を維持するために重要だ。

 だが、ただ栄養摂取をするだけにしてしまっては、野生の獣と変わらない。

 だからといって、バランスが足りないとか、そういう問題でもない。

 今や愛玩動物でさえ、与えられる餌の栄養バランスは抜群だ。

 美食家を気取るつもりはないが、食事は娯楽であると思う。


 昼休み。


 食堂で食事を取り、自席に戻ってきたタイミングで、何気なく魔法使い(PG:女)に雑談を振る。


「そういえば、ビールや日本酒は飲むって聞いたけど、ワインとかは飲まないの?」


 ウイスキーやブランデー、または焼酎という選択肢もあったが、まずはワインで聞いてみた。

 特に意味があるわけではないが、ワインは若い女性が飲むような印象がある。

 他の選択肢は、若い女性が飲むにしては渋すぎる。

 最近はハイボールなども流行っているようだし、偏見だろうか。

 焼酎はチューハイに使われているといえばそうなのだが、チューハイを指して焼酎を飲んでいるというのは、焼酎好きに怒られそうな気がする。


「飲みますよ。でも、種類は詳しくないですね」


 魔法使い(PG:女)が答えてくる。

 まあ、ワインは値段も種類も大量にあるからな。

 もし、詳しいですと言われても、話についていける自身はない。


「飲み方も、魚には白ワイン、肉には赤ワイン、という程度しか知らないです」


 それは聞いたことがある。

 とは言っても、自分でそれを意識して注文したことはないな。


「先輩さんは飲むんですか?」

「飲めるか飲めないかでいったら飲めるけど、自分で注文してまでは飲まないな」


 その程度だ。

 二人とも飲みはするが、それほどこだわりは無いといったところだろうか。

 そんなことを考えていると、後輩が話に加わってきた。


「ワインに合わせるなら、どんなオツマミにしますか~」


 こっちはどちらかというと、オツマミの方に興味があるようだ。


「ワインにはチーズだろう」


 答えたのは魔法使い(PG:ベテラン)だ。


「生ハムとかも合いますよね」


 魔法使い(PG:男)も続く。

 そんな感じで、なんとなく全員が答える流れになった。


☆★☆★☆★☆★☆★


「でも、チーズや生ハムって、料理と言うよりは食材ですよね~」


「ぐっ」

「うっ」


 なぜか、痛いところを突かれたといった表情を見せる、魔法使い(PG:ベテラン)や魔法使い(PG:男)。

 別にそれでもいいと思うのだが。


「でもほら、チーズって色々種類があるし、食べ比べとか楽しそうじゃないか」


 なんとなくフォローしておく。


「そうですね~。オススメの種類ってありますか~?」


「そ、それは・・・」

「ごめんなさい、知りません」


 だから、別に謝らなくていいと思うのだが。

 なんだろう。

 種類に詳しくないと、チーズや生ハムが好きだと公言してはいけないなどの掟があるのだろうか。


 ・・・・・


 なんとなく、ありそうな気がする。

 あの業界はこだわる人が多いからな。

 そういえば、最近の若者はワインの消費量が低下してきていると聞いたことがある。

 やはり、素人が足を踏み入れるには、厳しい世界なのだろうか。


「先輩は何かオススメはありますか~?」


 今度はこちらに矛先が向いた。

 ワインに合うオツマミか。

 正直詳しくないのだが。


「フルーツとかはどうかな?ワインってブドウからできているし、なんとなく合うような気がする」

「なるほど~」


 肯定的な相槌だが、絶賛するほどの同意は得られていないな。


「他にオススメってある?」


 魔法使い(PG:女)が後輩に尋ねる。

 そうだな。

 そう言えば、後輩自身のオススメを聞いていなかった。


「わたし~?わたしはケーキかな~」


 これはまた予想外の名前が挙がったな。


「ワインはアルコールだろう。甘いお菓子はオツマミには向かないんじゃないか?」


 先ほどの仕返しというわけでもないだろうが、魔法使い(PG:ベテラン)が指摘する。

 だが、なんとなく、説得力がある気もする。

 例えば、饅頭には日本茶だろう。

 饅頭に日本酒は、あまり合わせない気がする。


「そうですか~?」


 しかし、後輩は不思議そうに首を傾げる。


「でも、クリスマスとかに、ケーキと一緒にワインを飲みませんか~?」

「た、確かに・・・」


 あっさり論破される魔法使い(PG:ベテラン)。

 なるほど。

 ワインのオツマミにケーキと言われると疑問を感じたが、ケーキを食べるときにワインと言われると違和感が無いな。


「そういえば、和菓子でも酒饅頭ってありますしね」


 魔法使い(PG:男)が思い付いたように言う。


「うっ」

「?」


 なんとなく、先ほど考えていたことを指摘されたような気がして、呻いてしまう。

 そうか。

 それがあったか。

 オツマミにするのとは少し違うが、饅頭と日本酒が合わないというわけではないな。


「それに、赤ずきんちゃんのお話でも、おばあさんにワインとケーキを持っていきますし、きっと伝統の組み合わせですよ~」


 童話にも出てくるくらいの常識か。

 つまり幼稚園児でも知っていると。

 自分の無知を痛感する。


「課長は何かオススメはありますか~?」


 そういえば、課長が自分の意見を言っていないな。


「ん?ワインに合うオツマミか。ワインはデザートに飲むくらいだからなぁ」

「おぉ~、オシャレですね~」


 流石だ。

 その答え方は思いつかなかった。

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