第133話 天と地と(地)

「まだ、雨降ってますね」


 魔法使い(PG:女)が窓の外を眺めながら呟く。


「梅雨に入ったかな」


 課長が相槌を打つ。

 パーティメンバーの中では、課長の席が窓に一番近い。

 それで聞こえたのだろう。


「今朝、傘忘れちゃって、コンビニで買いました」


 魔法使い(PG:男)も油断したらしい。

 親近感を覚える。

 自分は忘れなかった、というか常に持っているのだが、油断してモンスターの攻撃を食らってしまった。


「コンビニの傘って高くないか?」


 魔法使い(PG:ベテラン)が尋ねる。

 確かに、あの秘密結社(コンビニ)は、様々なものを扱っている反面、あまり安売りしないからな。


「安い物もありますよ。ただ、そういうものから売れていくから、残っていたのは、ちょっと高かったです」


 まあ、それが油断をした代償なのだろう。

 自分も鎧(スーツ)をメンテナンス(クリーニング)に出さなければならない。


「じゃあ、お先に失礼します~」


 後輩が完全装備で姿を現す。


『お疲れ・・・さま』


 一瞬間があった。

 なぜかは、つっこまない。


☆★☆★☆★☆★☆★


 今日は後輩と魔法使い(PG:女)と帰るタイミングが同じになった。


「そういえば、驚いていなかったね」


 魔法使い(PG:女)に後輩の姿に対するリアクションを尋ねる。


「ええ、新入社員教育を受けている頃に見たことがありましたから」


 伝説の鎧(合羽)を身に着けた姿。

 朝はそこまでしか知らなかったが、後輩の装備はそれだけではなかった。


「なんのことですか~」


 がぽっ・・・がぽっ・・・


 重厚感のある音を立てながら、後輩が歩いている。

 音の発生源は後輩の足元。

 かつて人語を解する神獣が身に着けていたとされる伝説の装備(長靴)だ。

 神獣(長靴をはいた猫)は、この装備で怖ろしい魔法使いを倒し、王様に認められたらしい。


「いや、雨に濡れ無さそうで、いいなと思って」


 これは素直な感想だ。

 昨日までの自分なら、そうは思わなかったかも知れない。

 しかし、朝にモンスターからの攻撃を食らったため、今は本気でそう思っている。


 改めて自分の装備を確認する。

 確かに不意打ち(にわか雨)にも対応できるように常時装備は持っている。

 だが、後輩の装備と比較すると、あまりにも頼りない。

 上からの攻撃にしか対応できない。

 風が吹いただけで、防御の隙間を縫って、攻撃を食らってしまいそうだ。


 それに対して後輩は『どこからでも、かかってこい!』と言わんばかりの完全防御だ。


「いいですよ~」


 こちらが感心したからか、後輩は嬉しそうだ。


「でも、防御力は上がりそうですけど、女子力は下がりそうですね」


 魔法使い(PG:女)が、ちょっと上手い事言ったという表情をするが、こちらの視線に気づくと顔を赤くする。


「む~、濡れるよりいいよ~?」


 後輩が拗ねたように反論する。

 まあ、どちらの言い分もわかる。


 ぱしゃ・・・ぱしゃ・・・

 ぱちゃ・・・ぱちゃ・・・

 がぽっ・・・がぽっ・・・


 しばし、そんなことを話しながら、転移ポータル(駅)へ向かう。


「そう言えば、この間の飲み会の後は大丈夫だった?ずいぶんと酔っていたみたいだけど」


 魔法使い(PG:女)に話しかける。

 普通にギルド(会社)に来ているから大丈夫だったのだろうが、転移ポータル(電車)から出た後は後輩に任せたから、少し心配していたのだ。

 かと言って、夜遅くに女性の家に押しかけるのも躊躇われた。


「そうそう~、次の日の朝・・・」


 後輩が思い出したように、何かを言いかける。

 その表情は楽し気なので、悪いことではないと思うが。


「!な、なにもありませんでした!大丈夫です!」


 それを遮るように、魔法使い(PG:女)が言い放つ。


 ぱちゃ・・・バチャンッ!


「・・・・・」

「・・・・・」

「あぁ~」


 慌てていたようだから余所見をしたのだろう。

 なにが彼女を動揺させたのかは分からないが、話しかけたのは自分だ。

 だから、やつあたりはしない。


「・・・すみません」

「いや、雨の日だから仕方ないよ」

「思いっきり水たまりを踏み抜きましたね~」


 ダメージを受けたのは自分と魔法使い(PG:女)。

 後輩は無傷だ。


「わたしも合羽を買おうかなぁ・・・」


 落ち込んだように、魔法使い(PG:女)が呟く。


「長靴もいいよ~」


 後輩がアドバイスするように言う。

 これが、勝ち組の余裕か。

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