第109話 海を飛ぶ鳥・空を泳ぐ魚
今日はクエスト(お仕事)を早めに切り上げて懇親会だ。
「おいしそうですね~」
後輩が料理が写っている写真を見ながら呟く。
『シーフード三昧コース 飲み放題付き』
これが本日のメニューだ。
「まずは、飲み物を注文しよう」
「そうですね~」
順番に聞いていく。
課長「生中を」
後輩「生大~」
魔法使い(PG:ベテラン)「ハイボール」
魔法使い(PG:男)「ウーロンハイ」
なんとなく性格が出ている気がする。
それはいいのだが、あまり頼む人間を見たことがないものが混じっていたな。
「生大って、途中でぬるくならないか?飲むのに時間がかかるだろうし」
「なにを言っているんですか~。量が多いから冷めにくいんですよ~」
「そういう考え方もあるか」
まあ、それが判る頃には酔っ払っているだろうから、どうでもいいのかも知れない。
あとは魔法使い(PG:女)だ。
彼女の方を見る。
「あの・・・」
彼女が飲み放題のメニューを見ながら、なにやら考えている。
「利き酒をしませんか?」
そういうメニューがあるわけではない。
ようするに色々と飲んでみたいという意味だろう。
そういえば、この店は日本酒の種類が豊富だった。
ただし、飲み放題においては一人で一度に複数を頼むのはルール違反だ。
「ダメですか?」
それで、この上目づかいか。
今日は幹事であることだし、乗っていこう。
けっして、上目づかいに負けたわけではない。
「いいよ。それぞれ違う日本酒を頼もうか」
「おっ!それじゃあ、私も日本酒にしよう」
「課長さん、男前です!」
さすがは課長。
人心掌握術も心得ている。
小遣いを交渉すると言っていた姿とは大違いだ。
☆★☆★☆★☆★☆★
「それにしても・・・」
魔法使い(PG:ベテラン)が、鮎の甘露煮を口に運びながら、誰にともなく話しかける。
「日本酒って、そんなに味が違うものなのか?」
キラン!
魔法使い(PG:女)の眼が光った気がした。
これは、アレだろうか。
なにか、スイッチを押したのではないだろうか。
「確かに、利き酒って日本酒ではよく聞きますけど、ビールではあまり聞きませんね。どれくらい味の違いがあるのか、ちょっと興味があります」
魔法使い(PG:男)が話に乗っかる。
これで犠牲者は確定だ。
「そうですか、興味がありますか」
魔法使い(PG:女)は語る気満々のようだ。
「え、あの、ちょっとだよ?」
魔法使い(PG:男)が何かを察したのか、軽く警戒している。
「でも、日本酒ってアルコール度数が高いよな。ハイボールみたいにソーダで割ったらいいんじゃないか?」
そこへ魔法使い(PG:ベテラン)が爆弾を投下する。
「意味が分かりません!」
案の定、魔法使い(PG:女)の何かに触れてしまったようだ。
「川魚をシーフードと呼ぶくらい意味が分かりません!」
どじょうの唐揚げを喰いちぎりながら、憤慨している。
酔いも手伝っているのだろうが、年功序列など知るかとばかりに、説教を開始した。
「お鍋が来ましたよ~」
そこへ後輩の声が聞こえてきた。
まさに女神の救いの声だ。
「おいしそうですねー」
チャンスとばかりに魔法使い(PG:男)が、そちらの話題に入る。
魔法使い(PG:ベテラン)が、『裏切り者!』とでもいいたげな視線を向けているが、見えない振りをしている。
意外と世渡りが上手いようだ。
「シジミでダシを取ったお鍋らしいですよ~」
「旨そうだな」
さりげなく課長も、そちらの話題に入っている。
犠牲者は放っておくつもりのようだ。
パーティーメンバーとしては、リーダーの方針には従うものだろう。
当然、自分もそちらに入る。
「しかし、シーフード三昧と言いながら、川の食材が多いですね」
「ネタなんじゃないですか。それで話を盛り上げるとか。だって、ほら」
「海鮮コースっていうのがありますね~。そっちは海の食材だけみたいです~」
「水産物コースっていうのも味気ないしな」
盛り上がりながら、鍋をつつく。
これぞ、懇親会だ。
魔法使い(PG:ベテラン)が、ちらちらとこちらに助けを求めるような視線を送っているように見えたが、きっと気のせいだろう。
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