第102話 続・仁義なき戦い

 それは、何気ない一言から始まった。


「先輩は、きのことたけのこ、どちらが好みです~?」


 魔法使い(プログラマー)たちとの作戦会議。

 思いがけず長引いたので休憩を取ることになった。

 ソレをお茶請けに持ってきたのは誰だったか。

 疲れた脳に糖分はありがたい。

 しかし、それが新たな戦いの火種となることになった。


 キラン!

 キラン!

 キラン?

 ?


 何人かの目が光ったのが分かった。

 物理的な光ではないが、気配に敏感な冒険者(サラリーマン)が見逃すはずがない。

 明らかに空気が変わった


「ちなみに、私はきのこだ」


 課長が口火を切った。


☆★☆★☆★☆★☆★


「へ~」

「そうなんですか」


 後輩と自分が相槌を打つ。

 正直、どうでもいい。

 だが、どちらでもいいという回答は口には出さない。

 優柔不断は冒険者として失格だ。

 たとえ、どんなにくだらないことだとしても、信念を持って選択する。

 それが冒険者だ。


「あ、あの・・・たけのこが好きです」

「ほぉ」


 見習い魔法使い(プログラマー:男性)が続く。

 おどおどした態度に反して、なかなか、勇敢だ。

 自分より上の存在に媚びることなく、自分の意志を通す。

 弱者にできることではない。

 見直した。

 自分と課長が感嘆の声を上げる。


「気分によるかなぁ」


 次に口を開いたのは魔法使い(プログラマー:男性)だ。

 だが、それは論理的な思考を得意とする魔法使いの答えではない。

 冒険者としても好ましくない。


「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」


 ふいっ。


 全員が彼から視線を外す。


「え?なに?」


 周囲の反応に戸惑っているようだが、相手にする者はいない。

 彼も冒険者だ。

 自分で気づくのを信じよう。


「わたしは、きのこですね。最初に軸を食べてから、次に味の強い傘を食べます。ちょっと手が汚れますが、その方が味がよくわかります」


 見習い魔法使い(プログラマー:女性)は流石だ。

 ただものではない。

 こだわり、それに理由も明確に意見に出す。

 ここで理由もなく、こだわりだけを口にしていたら、右から左に流されていただろう。

 しかし、彼女の言葉は周囲の人間に響く。

 たとえ、信じるものが違っていたとしても、互いに認め合うことだろう。


 ちらっ。

 ちらっ。

 ちらっ。


『こくっ!』


 課長と見習い魔法使い(プログラマー:男性)が彼女と視線を重ね、頷き合う。


 じーっ。

 じーっ。

 じーっ。

 じーっ。


 魔法使い(プログラマー:男性)を除く、全員の視線が自分に集まる。

 後輩も流れに乗って、視線を向けてきている。

 というか、もともとは彼女の質問がきっかけだったな。

 まだ、それに答えていない。


「たけのこかな。反論するわけじゃないけど、せっかくバランスを考えられて作られているんだから、一口で食べたい。それなら混ざり具合が上の、たけのこが好みだ」


『ぐっ!』


 全員がサムズアップを返してくれる。


「そういえば、昔、すぎのこ・・・」


 魔法使い(プログラマー:男性)がなにやら話しているが、誰も視線を向けない。

 敗者にかける言葉はない。


「そういえば、なにが好きなの?」


 肝心の後輩の意見を聞いていなかった。

 問いかける。


「わたしですか~?わたしは両方ですね~」


 一瞬、未熟さを疑ったが、彼女の言葉は終わりではなかった。


「疲れているときはチョコの味がよくわかるキノコ、くつろいでいるときは食感が楽しいタケノコですね~」


 なるほど。

 いいとこ取りというわけか。

 しかも、理由も理にかなっている。

 案外、彼女のような人間が争いを終わらせることができるのかも知れない。


「先に発売されたのは、きのこだ」

「売り上げが上なのは、たけのこですよ」

「売り上げで負けているのに残っているということは、ファンがいるということで」

「最近、色んな味も出てますよね~」

「ビターなのはビールにも合うよね」


 自陣の優位性を主張し合う。

 だが、敵陣を貶めるようなことはしない。

 争ってはいるが、相手を尊重するのは忘れない。

 この戦いが、いずれ世界に平和をもたらすだろう。


「えーっと・・・」


 敗者のみが戦場をあてもなく彷徨う。

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