第101話 仁義なき戦い

 冒険者(サラリーマン)は礼儀を重んじる。

 レベル(役職)や年齢が上の冒険者に礼節をもって接するのは当たり前だ。

 それに限らず、レベルや年齢が下の冒険者にも仁義を切る。


 だが、ときに例外もある。


 たとえ相手がギルドマスター(社長)だろうと関係ない。

 年功序列など知ったことではない。

 そこに仁義など存在しない。

 ただ、速く運が良い者だけが勝つ。

 そんな戦いだ。


「そっちはどうだ?」


 後輩に戦況を聞く。


「駄目です~!ことごとく先手を取られてます~!」


 くそっ。

 予想していたとはいえ、ここまでとは。


「諦めるな」

「で、でも、先輩~・・・」


 後輩が情けない声を出す。

 気持ちは分かる。

 なんとか励ましたいとは思う。

 だが、ここで精神論や技術的なことを説いたとしても、意味はない。

 根気だけが武器なのだ。

 今はひたすら耐えるしかない。


「チャンスは必ず来る。切れ目を狙うんだ」

「は、はい~」

「30分単位でチェックして、他の人が休憩を取る前後はチェックする間隔を短くして」

「分かりました~」


 それでしばらくは様子見だ。


☆★☆★☆★☆★☆★


「あ!」


 数時間経過した頃、後輩が声を上げる。


「どうした?」

「空きました~!いきます~!」


 待ちわびたチャンスが到来した。

 隙間を狙って後輩が攻撃をしかける。

 固唾を飲んで見守る。


「そんな~!」

「!」


 後輩が悲痛な叫び声を上げる。

 悪い予感しかしないが、聞くしかない。


「どうだった?」

「先を越されました~」


 やられたか。

 せめて相手の姿が見えていれば対策も取れるのだが、この戦いではそれはできない。


「まるでこちらの動きを読んでいるようです~」


 相手も条件は同じはずだ。

 速さと運で一歩遅れを取ったのだろう。

 だが、後輩が悪いわけではない。

 技能が低いわけでもない。


「仕方がない。次のチャンスを待とう」

「了解です~」


 ここまでキツイのは、ひさしぶりだ。

 ここは人海戦術といこう。

 自分も参加することにする。

 わずかでも確率を上げるためだ。


☆★☆★☆★☆★☆★


「きた。しかも二ヵ所だ」

「ホントですか~!」

「こっちは上をいくから、下を頼む」

「了解~!」


 後輩と同時に攻撃を開始する。


「ごめんなさい~。競り負けました~」

「・・・・・」


 後輩は駄目だったようだ。

 プレッシャーが増す。

 自分の方も結果が出るのは、もうすぐだ。

 時間から考えて、次のチャンスは訪れないかも知れない。

 祈るように、そのときを待つ。


「やった。取れた」

「さすが先輩です~!」


 後輩が感心してくれるが、運がよかっただけだ。

 だが、運も実力のうち。

 驕るつもりはないが、結果は出すことができた。

 これで一安心だ。

 勝利の喜びよりも、安堵の気持ちが強い。


☆★☆★☆★☆★☆★


「でも、会議室の予約を取るのも大変ですね~」

「参加者と開催時間を調整するときに、候補の時間に複数の予約する人がいるからね」

「それってマナーとしては、どうなんでしょうか~」

「まあ、仕方ない面はあるけど、あまりよくはないよね」


 これでも最近はマシになったのだ。

 昔は参加者の予定を聞くために電話をしまくったり、開催時間をメールしたら予定があわなくて、変更したらまた駄目だったりして、大変だった。

 今はシステム上で社員の予定表を見ることができるので、ある程度の空き時間を把握できる。

 たまに、予定を入力しない人がいるので、あてが外れることもあるが。


「でも、予約が取れて安心しました~」

「そうだね」


 後輩と和む。

 そこへ課長の声が聞こえてくる。


「うーん、会議室の空きがないなぁ」

「・・・・・」

「・・・・・」


 どうやら、課長も会議室の予約を取ろうとしているようだ。

 こちらに視線を向けてくるのが分かった。


「予約を取っている会議室を使わせてもらうわけには・・・」

「無理です」

「別の日なら予約を取れているんだけど、交換してもらうわけには・・・」

「参加者の予定があわないので無理です~」

「・・・頑張るよ」

「定時前や定時後なら空きやすいですよ」

「・・・そうだね。参加者は嫌がるだろうけど」


 仁義なき戦いは続く。

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