第53話 憤怒

 12月29日。

 今日は木曜日だ。


 今日から冬休みだ。

 のんびりしたいところだが、年末年始はイベントが多い。

 ぼーっとしていると、あっという間に終わってしまう。

 まずは自宅の大掃除だ。


 とはいえ、食器の洗い物や、衣服の洗濯は毎日している。

 ゴミもこまめに捨てている。

 ちらかったゲームや本の整理と、普段はしないエアコンのフィルター掃除くらいだ。


 まずは、ゲームのカセットでも整理するか。


☆★☆★☆★☆★☆★


 ピコピコ


「おお」


 連続で複数列のブロックを消すことができた。

 流れがきている。

 たまに、AI(人工知能)でも積んでいるんじゃないかってくらい、嫌がらせのようなブロックの形が続くことがあるからな。


 ピコピコ


 ・・・・・


「あれ!?」


 大掃除していたはず。

 なぜ。

 先日、ギルド(会社)でやったゲームと同じカセットを見かけて、懐かしくなったことが、きっかけだった気がする。

 いかんいかん。


 掃除に戻る。

 ゲームの整理は後だ。

 引き寄せられてしまう。


☆★☆★☆★☆★☆★


 ピコピコ


「うわ、あぶない」


 薬草を使う。


「ふぅ・・・」


 HPが安全圏まで回復した。


 ・・・・・


「ちがう!」


 大掃除していたはずだ。

 今度はどんな罠にはまったんだ。

 確か攻略本に挟んでいた復活の呪文を見つけたのが、トリガーだった気がする。

 ひさしぶりにボスの姿を見たくなってやっていたら、意外と苦戦して3回目だ。

 攻略方法の記憶があいまいで、やりこんだはずのゲームもなかなか楽しめる。


 ・・・・・


 いや、そうじゃなくて、掃除だ。

 本の整理も後だ。

 どうせ古い攻略本を捨てる気はない。

 週刊誌だけ縛っておこう。

 なんだか腹が立ってきた。


☆★☆★☆★☆★☆★


 ピコピコ


 ベルを撃って、狙いの色に変化させる。


「よし」


 たまに取り損ねるのだが、今回はうまくいった。


 プルルルル・・・


「もしもし」

「先輩ですか~?わたしです~」


 珍しい。

 プチデビル(女子高生)かと思ったら、後輩だった。


「なにしてますか~?」

「いま・・・」


 掃除。

 だったはずなのだが。

 今回は・・・確かベランダを猫が横切ったんだった。

 飼い猫らしく、首に鈴をつけていた。

 それを見た瞬間、そういえばベルが出てくるゲームがあったなと思い出して・・・


「どうしました~?」

「・・・もう、ダメかも知れない」

「え?なにがですか~?」


☆★☆★☆★☆★☆★


「手伝いにいきますね~」


 と言って30分もしないうちに後輩がやってきた。

 本当に近くに住んでいたらしい。

 なぜか見習い魔法使い(プログラマー:女性)もいた。


「遊びにきてたんですよ」


 なるほど。

 それはいいのだが、この状況。

 ご近所からはどう見えるのだろう。

 掃除のために窓を全開にしているから、なおさらだ。


「こういうところから、外堀が埋まっていくのですよ」


 びくっ。


「冗談ですよ?」


 ちょっと、怖かった。


☆★☆★☆★☆★☆★


「これがピコピコですか~。紅白でかわいいですね~」

「横スクロールしないマリオって、初めて見ました」


 と言って、興味を持ったのが最後だった。

 対戦にはまったらしい。

 もちろん、プレイスタイルはデスゲームだ。


 その後は結局、一人で掃除を進めた。

 この二人、何しにきたんだっけ。

 いや。

 はかどったから、別にいいのだが。


 やはり、レトロゲームの魅力には、誰も逆らえないらしい。

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