第52話 嫉妬

 12月28日。

 今日は水曜日だ。


 午前中はまったりと過ごし、午後は大掃除だ。

 とはいえ、普段から清掃ギルド(お掃除おばさん達)が掃除をしている。

 自分の机まわりの不要な書類を整理する程度だ。


 そして、夕方からは納会だ。


 最近は飲酒運転にも厳しい。

 前世紀は納会にアルコールも出していたらしいのだが、今世紀はジュースだけだ。

 役職が上の人間の挨拶がすんだら、あとは歓談してお開きだ。


☆★☆★☆★☆★☆★


「だいぶ、書類が溜まってますね~」

「定例会は紙だしね。ノートパソコンを持ち込みできたらいいんだけど、手続きも大変だし」


 必要な書類と、不要な書類を分類する。


「わたしの分と一緒に、シュレッダーにかけてきましょうか~」


 後輩の分を見ると、自分の分と比べて量が少ない。


「いいよ、自分でするから。それより、そっちの方が少ないみたいだから、一緒にしてこようか?」

「なら、一緒に行きましょう~」


 いや。

 1つしかないから、一緒に行っても同時にできないんだが。

 まあ、休憩がてら、それもいいか。


「明日から休みですね~。年末年始はどうやって過ごすんですか~?」

「毎年、部屋の大掃除をしてから、実家に帰るくらいかな?」


 ガーッ!


 ケルベロス(シュレッダー)に餌(不要な書類)を与えながら、後輩と雑談する。

 ケルベロスは、冥界から逃げ出そうとする亡者(機密情報)を捕らえて貪り食う。

 地獄(セキュリティ事故)の番犬だ。


「実家、どちらなんですか~?」


 地名を教える。


「あれ、意外と近いですね~。それなのに一人暮らしなんですか~?」

「近いことは近いんだけど、毎日通おうとすると、微妙に遠くて」


 ガーッ!


「先輩の家はどこなんですか~?」


 地名を教える。


「わたしの家と近いですね~?通勤のときに会ってもよさそうですけど、会ったことないですね~」


 ガーッ!


「なにで通ってるんだっけ?近鉄?JR?」

「わたしは近鉄です~」

「こっちはJR」


 ガーッ!


 近鉄は本数と駅が多いのだが、通勤ラッシュの混雑がものすごい。

 一方、JR関西本線は本数と駅は少ないが、混雑も近鉄より緩い。

 決まった場所を行き来するだけなら、JR関西本線は穴場なのだ。


「わたしも、JRにしようかな~」


 ガーッ!


 通勤経路を途中で変えると、ギルド(会社)の手続きが必要で、けっこう面倒なのだが。

 自分も混雑に耐えられずに途中で変更した口なので、止めはしないが。


「実家ではどうやって過ごすんですか~」

「近くに従妹の娘が住んでいて、大晦日と元旦は集まって遊ぶことが多いかな。子守りみたいなもんだけど」


 ガーッ・・・ぴーっぴーっ!


 ケルベロス(シュレッダー)の腹(ビニール袋)がいっぱいになったようだ。


 ガサガサ。


「ずるい~」

「え?なにが?」


 かちゃ・・・ガーッ!


「わたしも遊んでください~」


 他の娘に嫉妬して駄々をこねるって、子供か。

 仕事仲間というより、子供に懐かれているといった感じがする。

 まあ、ご近所のようだし、親近感は湧くが。


☆★☆★☆★☆★☆★


「どこにしましょうね~」


 そんな感じで、休み中に遊びにいくことになった。

 温泉に行ったときは行き先を決めてもらったので、今回はこちらが決める。


「今からだと宿を予約するのも大変ですし、日帰りですかね」


 前回は一緒に行ったのに仲間外れにするのは悪いということで、見習い魔法使い(プログラマー:女性)も一緒に行くことになった。

 今は納会中だ。


「あんまり、若者が遊ぶようなところは、知らないんだけどなぁ」

「先輩、そのセリフが似合うほど、歳とってないですよね~」

「自分じゃ行かないようなところへ行くのも、楽しいですよ」


 どこにするかな。

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