第50話 傲慢

 12月26日。

 今日は月曜日だ。


 クエスト(お仕事)の関係で、地下都市(名古屋市 栄の地下街)にきている。

 だが、目的地はここではない。

 地下都市を抜けて、地上に出る。


 陽の光とともに目に入ってきたのは、微妙な高さの塔(名古屋テレビ塔)だ。


☆★☆★☆★☆★☆★


「うーん・・・」


 微妙。


 いや。

 夏のビアガーデンなど、周辺で楽しげなイベントは行われるのだが、本体がなんだか微妙。

 象徴としての存在感が微妙。

 この辺りの住民など、子供の頃から思い入れがある人にとっては違うかもしれないが。

 ギルドに所属(就職)し、大人になってから見る頻度が増えた自分にとっては微妙。


 まず、名前が普通。


★バベルの塔と同じく、天に挑むという名を冠する、魔都(大阪)の象徴、通天閣。★

★天空の城と同じく、天から見下ろす高さを誇る、首都(東京)の象徴、スカイツリー。★

★名古屋にあるらしい、テレビの電波を飛ばしそうな、ランドマーク、名古屋テレビ塔。★


 もうちょっと、ひねった名前を付けられなかったのだろうか。

 前の2つに比べて、いまいち、ひねりが足りない気がする。


 いや。

 復興の象徴であるとか、由緒があることは、知っているのだ。


 名古屋にあることも分かりやすい。

 なにを目的とした建物なのかも分かりやすい

 塔という形も想像しやすい。


 でも、それだけの名称だ。

 なんというか、浪漫が足りない。

 テレビという単語が、建設当時に浪漫があったことは、想像できるのだが。


 そして、存在感が普通。


★幾度もの危機を乗り越え、今なお人々に愛される、守護神(ビリケン)に守られた、通天閣。★

★最新の技術を惜しみなく盛り込み、天から電波を降り注ぎ、情報で人々を支配する、スカイツリー。★

★アナログ放送が終了し、使い道を模索し、ライトアップとかしている、名古屋テレビ塔。★


 もうちょっと、なにかないだろうか。

 ライトアップくらい、最近はどこでもしている。


 いや。

 実際に行ってみると、そこそこ良いところがあるのは確かなのだ。

 しかし、外からの旅人(観光客)を引き付ける、なにかが足りない。


 高さの問題ではない。

 通天閣に行ったことがあるが、高さはそれほどでもない。

 しかし、旅人(観光客)で溢れ返っている。


 歴史の長さの問題ではない。

 スカイツリーに行ったことはないが、できたのは数年前だ。

 しかし、旅人(観光客)で溢れ返っている。


 そう言えば、名古屋の観光名所や名物は、どことなく他力本願なところがないだろうか。


 戦国時代の武将にあやかった、観光名所。

 悪くはないが、過去の遺産なので、今後増えることはない。


 店が苦労して作ったであろう人気名物メニューを名古屋のものと言い張る、名古屋メシ。

 店からしたら、全国に広げたいだろうに。

 地元に逆らうと村八分になるから、言い出せないのだろうか。


 ・・・・・


 存在するものを利用するのは得意だが、新しいものを創り出すのが、苦手なのだろうか。

 経済活動として、それが悪いことだと言うつもりはないが。

 経済学の用語には詳しくないが、確かジャイアニズムというのだったろうか。


 本能寺で討たれた織田信長のごとく、いつか周囲の都市に反逆を受けそうだが。


☆★☆★☆★☆★☆★


 長々と頭上を見上げていた気がするが、目的地はここではない。

 この近くにあるギルドの支部(自社の支社)に打ち合わせにきたのだ。


 ちらり。


 もう一度、塔を眺める。

 そういえば、アナログ放送からデジタル放送に切り替わったとき、取り壊しの話も上がったと聞いた気がする。

 あまり来たことはないが、子供の頃から知っている。

 そんな存在が無くなるのは寂しいものだ。

 なんとか、価値を高めて、存続して欲しいものだ。


 最近の状況はどうなのだろうか。

 人工生命体(Android)を目覚めさせて(起動して)、調べてみる。


「あれ?」


 プロジェクションマッピングとか、面白そうなイベントをやっていたらしい。

 だが、全く知らなかったぞ。

 ポスターもあったようだが、見た覚えがない。

 もう少し調べてみると、塔の外側ではなく内側に映すタイプらしい。

 外に映すタイプだと、それだけで宣伝になるのだが。


 ・・・・・


 もしかして、宣伝が下手なだけなのだろうか。

 もしくは、地元民だけで楽しもうと、宣伝を控えたかだ。

 まあ、取り壊されることはないようで、なによりだ。

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