第51話 怠惰

 12月27日。

 今日は火曜日だ。


 午前中に行ってきたクエスト(定例会)も無事に終わった。

 モンスター(お客様)は、明日から冬眠(冬期休暇)だ。

 つまり、年末までのクエスト(お仕事)は、ほぼ終わった。

 なにが言いたいかと言うと。


 暇だ。


 ギルド(自社)は、明日が仕事納めだ。

 今日と明日は、何しよう。


☆★☆★☆★☆★☆★


「夏季休暇は、お客様と時期がずれても、困った覚えはないんですけどね~」

「きりがいいところまで、仕事は終わったしな」


 午後。

 普段は仕事中にお喋りなどしないのだが、あまりにも暇なので後輩と雑談をする。


「暇なときは、仕事の効率化や改善策でも考えたら、どうだい?」


 課長が声をかけてくる。

 と言いつつ、手にはタバコだ。

 今日は課長も手持ち無沙汰に、コーヒーを飲んだり、タバコを吸いに行ったりする回数が多い。

 ちなみに、ギルド内は禁煙だ。

 決まった場所でのみ喫煙が可能だ。


「分かってるんですけど、ああいうのは忙しいときほどアイデアが浮かんで、必要にせまられて対策するんですよねぇ」

「色々やりましたね~」


 いかん。

 なんだか、気が抜けてしまった。

 後輩の間延びした口調がうつりかけている気がする。


「まあ、年末に固いことを言うつもりはないし、フレックスを使って帰ってもいいよ」


 そう言い残し、喫煙所に向かって行った。


「どうする?」

「いっそ、午後休なら取ったんですけど、時間が中途半端ですしね~」


 そうだよなあ。

 午後休なら有給で給料は減らないが、フレックスだと働いている時間が減ったことになって、給料が減る。

 残業している分があるからマイナスにはならないだろうが、報酬(サラリー)で日々の糧を得ている冒険者(サラリーマン)にとっては、死活問題だ。

 用事もないのに早く帰るのは、損した気分になる。

 たまに勘違いして都合のいい利用をしている冒険者もいるが、あれはもともと働き方の幅を広げるシステムだしな。


「あそこに行ってみるか」

「あそこですか~」


 同じクエスト(プロジェクト)に関わっているので、同じような状況であろう、魔法使い(プログラマー)たちのもとだ。


☆★☆★☆★☆★☆★


 彼らは手持ち無沙汰ではなさそうだった。

 暇を持て余してもいなかった。

 だが、あれはいいのだろうか。


「ゲームしてますね~。あれ、なんてゲームでしたっけ?」


 そのゲームは、かつて軍人を育成するために開発されたと噂された。

 または、敵国の生産性を下げるための罠という説もある。

 そして、日本でも数多くの中毒者を出した。

 ブロックが落ちてきて、一列になると消滅するという、物理法則を無視したルール。

 アナログで不可能だったことがコンピュータで可能になった現象の象徴。


 あのゲームだ。


「いや、遊んでいるわけじゃないですよ?」


 魔法使い(プログラマー:男性)が言ってきた。

 盛り上がり方を見ると、説得力はないが。


☆★☆★☆★☆★☆★


「プログラミングの勉強のために作っていたんですよ」


 見習い魔法使い(プログラマー:男性)が、誤魔化すように言う。


「これはデバッグです」


 魔法使い(プログラマー:男性)が、どや顔で言う。


「という建前で遊んでました」


 見習い魔法使い(プログラマー:女性)が、暴露する。


「デバッグ・・・手伝いますよ」


 にやり。


「なんだか、悪代官みたいな顔になっていますよ~」

「ノリがいいですね」


 なんとでも言うがいい。

 レトロゲームを愛する自分としては、この機会は見逃せない。


☆★☆★☆★☆★☆★


 戻ると課長が寂しそうに自分の席に座っていた。


「どこに行ってたんだい?」

「デバッグを手伝ってきました」

「がんばりました~」


 充実した時間だった。

 年末だし、たまには、こんな日があってもいいだろう。


 ちなみに、噂うんぬんはデマらしいので、知ったかぶりで話すと、恥をかきます。

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