第34話 ネクストクエスト
月曜日。
特に問題が発生することもなく、ボス戦(お客様へのリリース)は終了した。
これで一旦、クエストは完了だ。
しかし、すぐに次のクエスト(お仕事)が始まる。
冒険者(サラリーマン)の休息は短い。
今回は採取クエスト(お客様からの情報収集)だ。
☆★☆★☆★☆★☆★
転移ポータルを経由してダンジョン(客先)に到着した。
パーティーは、いつものメンバー(課長、自分、後輩)だ。
「それじゃあ、お客様に電話するぞ」
上司がミスリルソード(ガラケー)を抜き放つ。
★魔術師(お客様 キーマン)×1が現れた★
★魔術師見習い(お客様 若手)×1が現れた★
姿を現したモンスター(お客様)は、前回のクエストと同じだ。
しかし、今回は戦闘が目的ではない。
採取(情報収集)が目的だ。
「先日リリースしたものは、いかがでしょうか?」
「こちらで受け入れ試験をしていますが、特に問題ないようです」
ほっと息を吐く。
ここで躓くと、その後の戦況にも影響する。
「機能追加や機能改善のご要望などはございますか?」
「実は、前回は投入を諦めた機能を、やはり追加したいと考えています」
細かい話を聞いてみる。
ようするに、前回の最後に言い出した変更を行いたいようだ。
前回は時期の都合もあり対応しなかったが、今回は話が別だ。
報酬が貰えるなら、引き受けるのもありだ。
「わかりました。持ち帰って、お見積り案を作成します」
まずは、最低限の目的は果たした。
しかし、ここで終わるようでは、冒険者(サラリーマン)として、ひよっこだ。
「ご要望にはありませんが、このような機能はいかがでしょうか?」
事前に魔法使い(プログラマー)たちと相談して作っておいた武器(機能提案の資料)を取り出す。
前衛が思いつくアイデアだけでなく、後衛が思いつくアイデアも武器にする。
異なる視点というのは馬鹿にできない。
錬金術のように新しいものを生み出すことがある。
「これとこれは、うちでは必要ないですが、これは良いかも知れません。持ち帰って依頼するか検討します」
さすがに、その場で結果までは出なかったが、悪くない感触だ。
3つのうち2つは効果が出なかったが、こういうものは効果が出ることの方が少ない。
1つでも効果が出たのは、上出来だ。
「それでは、本日はありがとうございました」
☆★☆★☆★☆★☆★
ギルド(自社)に戻ると、魔法使い(プログラマー)たちのもとを訪れる。
「先日、ヒアリングさせていただいた内容を、お客様に提案してきました。ありがとうございます。好感触でした」
「それはよかったです」
まずは、礼を伝える。
たまに、アイデアだけ貰って、結果を伝えない冒険者(サラリーマン)がいるが、それは駄目だ。
こういうことは、自分の意見が採用される可能性があるからこそ、モチベージョンが上がるのだ。
たとえ結果が出ていなくても、ちゃんと役立っていることを伝えないと、いずれ有益な意見が貰えなくなる。
「それと仕様変更の要望がありました。継続して、開発をお願いしたいと考えています」
「わかりました。資料を確認させてもらいます」
この業界は、一期一会のこともあれば、長い付き合いになることもある。
また、忘れた頃に、過去に関わったことのある人に再会することもある。
魔法使い(プログラマー)たちとの付き合いも、しばらく続きそうだ。
☆★☆★☆★☆★☆★
「今回も製造は、あそこのグループにお願いするんですか~」
戻ると、後輩が声をかけてきた。
そういえば、ギルド内の打ち合わせには、後輩は連れて行っていなかった。
前回のクエストは、新規開発ということもあり、リスクが高かったからだ。
ふむ。
今回のクエストは、仕様変更なので、前回よりリスクは低いだろう。
少しずつ、後輩が前に出る機会も作って、育てていこう。
「そうだよ。次からは一緒に打ち合わせに行こうか。大きな議題のない会議は一人でお願いするかも」
「わかりました~」
人を育てるというのは難しい。
あまり無茶振りするとトラウマになりかねない。
本人のスキルより少しだけ難易度の高い指示を、徐々に与えていくのだ。
やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。
昔の偉人も言っていた。
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