第33話 闇の里

 ピコピコ


 今日は土曜日だ。

 趣味のレトロゲームでもして癒されよう。


 ピコピコ


 穴を掘って生き埋めにし、金塊を奪いとる。

 子供の頃は無邪気に楽しんでいたものだが、考えてみると残酷な設定だ。


 プルルルル・・・


「もしもし」

「あ、わたし」


★プチデビル(女子高生)が電波を飛ばしてきた★


「どうした?」

「今日、ひま?」


 ピコピコ


「いま、梯子を登ってる」

「登りながら通話は危ない・・・違う、ゲームの話でしょ。イルミネーション見にいきたいから付き合って」


 そうえいば、花を売りにしている里が、冬の客寄せとして始めた例のイベントが、そろそろだったか。

 人混みは苦手だが、距離が近いので、年に1回は行く。


 パチッ


「わかった」

「じゃあ、15時に長島駅で」


☆★☆★☆★☆★☆★


 里に着いた。


「うーん・・・」


 スマホを操作しながら、唸っている。


「どうした?」

「他にも人が来る予定だったんだけど、来れないみたい」


 そういうことは先に言っておいてくれ。

 知り合いのようだから、高校生だろう。

 しかし、こいつの友達に自分と共通の知人はいなかったはずだ。

 あの年頃は何を考えているのか理解できないから、ちょっと苦手だ。

 保護者として付き添うのはかまわないが、心構えがしたい。


「どうする?遅れてくるなら、待ってもいいけど」

「体調悪そうだから無理だと思う。入っちゃおう」


 まあ、最近、寒くなってきたからな。

 突然、風邪を引くこともあるだろう。

 直前のキャンセルに腹を立てるのも大人げない。


 チケットを購入して入場する。


☆★☆★☆★☆★☆★


 ぶらついていると、次第に薄暗くなっていく。

 それとともに、人が加速度的に増加していく。


「しかし、いつも思うんだけど、期間中毎日やっているのに、いつきても人混みがすごいよな」

「でも、来るときは土日が多いし、そのせいかも」


 なるほど。

 確かにそれはあるかも知れない。

 しかし、夜のイベントに平日くると、次の日に疲れが残りそうだしな。


「薄暗くなってきたし、そろそろ入口に行く?」

「そうだな」


 ・・・・・


 来たはいいのだが、入口が見えない。

 いや、場所は判っている。

 しかし、進むことができない。


「あいかわらず、すごいね」

「これがなければなあ・・・」


 幅広い道なのに、人々が溢れ返っている。

 それも、数十メートルもの長さをだ。

 猫が通る隙間もない。


「開始と同時に入らないなら、もう少し空いているみたいだけどな」

「でも、あの暗闇に順番に点灯していく様子が見たいし」


 確かにあれは見事だ。

 まさに祭りの始まりといった風情がある。

 その後も綺麗なのだが、やはり最初のあれは別格だ。


 しばらくすると、合図とともにカウントダウンが始まる。


『わあぁ!』


 闇の里に、いっせいに灯りがともり、歓声が上がる。


☆★☆★☆★☆★☆★


 人混みに酔いながらも灯りの道を進む。


 キラン!


「アレ、飲もう♪」


 途中、甘酒を飲んで暖を取りつつ、一周まわった。


「じゃあ、ここで」

「暗いから、気を付けて帰れよ」


 里の灯りは毎年のように、規模が大きくなっているという。

 近年では、飾り付けるだけでなく、灯りで壁やトンネルまで作っている。

 そのうち、夜だと気付かないくらいの明るさになるのではないだろうか。

 しかし、それでは昼間に電飾を付けているのと変わらない。


 風情を保ったままで、どこまで規模が大きくなるのか、行く末を見守ろう。

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