第19話 蟲

 プルルルル・・・


 日曜日の午後。

 見習い魔法使い(プログラマー:女性)から連絡があった。

 新たに蟲型モンスター(プログラムバグ)が発生したらしい。

 しかも、土曜日と日曜日に魔法使い(プログラマー)達だけで対処していたらしい。

 しかし、現時点で全てが解決していないそうだ。


「これから、行きます」


 詳しい話は現地に行ってから聞こう。

 彼女から電話がきたということは、上の強引な進め方に付いて行けず、こっそり連絡をしてきたのかも知れない。


☆★☆★☆★☆★☆★


「調子はどうですか?」


 現地に着くと、さりげなく声をかける。


「どうしたんですか、日曜日に」


 魔法使い(プログラマー:男性)が、しれっと言ってくる。

 こちらが来ることを知らなかったところを見ると、やはり見習い魔法使い(プログラマー:女性)が気を効かせて連絡をくれたようだ。


 こっちが、どうしたと聞きたい。

 結果を連絡しろと言ったのに連絡せず、自分達だけで内密に解決しようとしたのだろう。

 プライドがあるのは結構だが、それに見習い魔法使いを巻き込んでいる自覚はあるのだろうか。


「いえ、近くにきたら、電気が付いているようだったので、様子を見にきました」

「そうですか」

「なにか問題でも発生しましたか?」

「実は・・・」


 観念したように話し始めた。

 こちらが要求したテストをおこなった結果、問題が見つかったらしい。

 結果に関わらず連絡してくれと言ったのは、無かったことになっているようだ。

 聞いていなかったのか、隠したのかは知らないが。

 つっこみたいところはあるが、まずは問題の解決だ。


☆★☆★☆★☆★☆★


 さて、蟲型モンスター(プログラムバグ)には、いくつか種類がある。

 雑魚は除くと、やっかいなのは次の種類だろう。


 フリーズ ・・・ ソフトが固まる(無限ループが原因?)

 ストール ・・・ OSを道連れに固まる(不正アクセスが原因?)

 リセット ・・・ 不正終了して再起動する(メモリリークが原因?)


 雑魚は断末魔(エラーメッセージ)を残すので対処が簡単だ。

 だが、こいつらは攻略(原因調査)が難しいことが多い。

 さらに、たちが悪いのが、発見が困難なケースも多いことだ。

 普段は隠れていて、クエストの後半で、ひょっこり姿を現すことがある。


「耐久試験で、リセットが見つかりまして・・・」


 懸念が的中してしまったようだ。


「ログを見ると、直前まで動作しているようなので、メモリリークが原因だと思うのですが・・・」


 やっかいだ。

 攻略(原因特定)にも時間がかかるし、対処したあとの効果確認にも時間がかかる。


「修正はできそうなのですか?」

「土曜日に原因を見つけたので、修正して耐久試験をかけたのですが、日曜日の朝に現象が発生していて・・・」

「原因が複数ありそうということですか」

「おそらく」


 ちらり


 見習い魔法使い(プログラマー:男性)と見習い魔法使い(プログラマー:女性)を見る。

 不安そうな表情をしている。

 疲労も溜まっているようだ。


 冷静に状況を整理してみよう。


 軽微なバグ ・・・ 修正済み。

 致命的バグ ・・・ ボトルネックになるものは修正済み。

 限定的バグ ・・・ 特定操作でのみ発生するものは制限事項にした。

 残件のバグ ・・・ 耐久試験で発見したリセット。8時間は正常動作。


 最終的には全て対処しなければならないが、今の時期なら致命的ではないな。


「今回は制限事項にしましょう。リリース準備をしたら帰って休んでください。明日も代休を取ってもらってかまいません」


 見習い魔法使いの二人が、ほっとしている。

 だが、魔法使いは、そうでもなさそうだ。


「でも、大きな問題を残すのは・・・」


 魔法使いが言ってくる。

 見習い魔法使いの二人が、また不安そうな表情になった。

 疲れているのに頑張っているところ悪いが、もう少し周りを見て欲しい。


「確かに、製造する側からすれば大きな問題でしょうが、お客様が試しに使うだけなら致命的ではありません」


 この辺りが、すれ違いに繋がるところだ。

 他人も自分と同じだろうと考える、自分中心の人間にありがちな思い込みだ。


「疲れを取って、来週、ゆっくり修正してください」


☆★☆★☆★☆★☆★


 後日、原因が判明して対策できたと連絡があった。

 ギリギリ、間に合うタイミングだったが、急いで投入するのは避けた。

 蟲型モンスター(プログラムバグ)に対処するときは、陥し穴(デグレード)にはまることがある。

 今回は、完璧を目指すより、被害を小さくする方向にすると決めたのだ。


「ふう」


 疲れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る