第18話 虫

 午後3時。

 今日は魔法使い(プログラマー)達に戦闘準備(進捗)の確認だ。

 来週にはモンスター(お客様)への中規模攻撃(中間リリース)が控えている。


 なのだが、約束の時間を10分過ぎても姿を現さない。


 プルルルル・・・プチッ


 連絡をしているが切られた。

 さらに、5分が経過したところで3人が姿を現した。


「お待たせしました。じゃあ、さっさと進捗報告をしちゃいましょうか」


★獅子身中の虫(プログラマー:男)×1が現れた★


 待たせたとは言っているが、悪びれる様子はない。

 遅れてきた理由くらいは説明してもいいだろうに。


「何か問題でもあったのですか?」

「いえ、デバッグしていたもので」


 説明になっていないが、まあ、いいか。

 自分の都合しか考えないタイプの人間なのだろう。

 モンスター(お客様)と直接戦闘(会議や交渉)したことが無い人間に、たまにいる。

 報告を聞いて問題があれば、そのときに指摘しよう。


「テストは順調でしょうか?」

「はい。バグが10件残っていますが、中間リリースまでに解決できる予定です」

「テスト項目の消化状況はどうでしょうか?」

「リリースする機能のテストは90%終わっています。中間リリースまでに全て終わる予定です」


 ふむ。

 数字だけを聴くと問題なさそうだ。

 だが、まれに数字の裏にある真実が隠されていることがある。

 特に、このタイプの人間は、怪しい気配がする。


「他のお二人は何か気になることはありますか?まだ、中間リリースなので、懸念点などあれば制約事項とすることも可能です」


 アメを与えて、様子を伺ってみる。


「あ、あの・・・」


★泣き面に蜂×1(新人プログラマー:男)が現れた★


 少しいつもより元気が無いように見える。


「テストの進捗は90%なのですが、性能試験や耐久試験が残っています。実際に使用したときに、そこで問題が出る可能性あります」


 テストは彼が行っているのだろう。

 可能性と言いながらも、何か気になっているところがあるのかも知れない。

 あるいは、すでに問題が出ているか。


「性能試験や耐久試験は、すべての機能が動作してからおこなわないと、二度手間になって効率が悪いですから」


 獅子身中の虫(プログラマー:男)が言ってくる。

 確かに使用する時間だけを考えれば、そうだろう。

 だが、大きな問題を早めに発見するという観点では、一概にそうとは言えない。

 経験を積んでいる者なら知っていそうなものだが。

 なにか言い訳の匂いがする。

 これは、当たりかな。


 きゅーっ


★腹の虫×1(新人プログラマー:女)が現れた★


「・・・失礼しました」


 ちらり、と時計を見る。

 午後3時30分。

 まだ、空腹を感じる時間ではないだろう。


「もしかして、昼食を抜いて仕事をしていたのですか?健康には気を付けてくださいね」


 女性なのでダイエットの可能性もあるだろう。

 だが、あえて仕事というキーワードを入れてみた。

 訴えたいことがあるなら、話しやすくなるだろう。


「ちょっと、全員でデバッグしていたもので」


 やはり、当たりのようだ。

 やっかいな問題が起きているのだろう。


「提案なのですが、今あるバグで特定の操作のときだけ発生するのは、制限事項にしましょう」


 時間をかけて解決するならよいが、解決できないと最悪だ。


「その代わりに、現時点のソフトで性能評価と耐久試験の実施をお願いします。OK、NGに関わらず、結果を教えてください」


 完璧を目指すより、被害を小さくする方向にしよう。

 そう締めくくり、打ち合わせを終わった。


☆★☆★☆★☆★☆★


「大丈夫かな」


 来週に向けた戦闘準備(資料作成)を進めながら考える。

 今日の打ち合わせでは、上が強引なタイプで、下が引きずられる形になっているように見えた。

 まずは、結果を待とう。

 無理をしそうだったら、止める必要があるかも知れない。

 なんとなく、嫌な予感がした。


「・・・虫の知らせかな」

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