第17話 プチデビル

 今日もクエスト(お仕事)を終え、地下迷宮(名古屋駅地下街)を歩いていた。


 ぽんっ


 地上へ上がったところで肩を叩かれた。


「ひさしぶり!」


★プチデビル(女子高生)×1が現れた★


 声をかけてきたのは、年末年始くらいしか顔を合わせない従妹だった。

 ともに魔の三角地方(東海三県)に暮らしているが、日常生活で偶然出会うには微妙に距離が遠い。


「珍しい。どうしてここに?」

「ここの近くの喫茶店でアルバイトしてるの」

「これから行くのか?」

「終わったところ。今日、創立記念日で学校休み」

「なんで制服?」

「校則」


 変なところで真面目なようだ。

 休日に制服を着るなんて古びた校則を守っている学生など、最近は見たことがないが。


 しばし、会話が続くが、この時間帯は人が多い。

 このまま話していると周囲に迷惑だろう。


「どこか入るか?」

「それなら、名古屋メシが食べたい」


 奢る流れになっている気がするが、まあいいか。


☆★☆★☆★☆★☆★


 飲食店街にきた。


「どれにするかなぁ」


 看板と睨めっこしている。


「みそかつは?」

「ダイエット中。揚げ物は、ちょっと」

「ひつまぶしは?」

「あれ、ボリュームあるよね。ご飯、3杯も食べれない」

「きしめん」

「麺類も炭水化物が多いし」

「味噌煮込みうどん」

「同じだってば」

「モーニング」

「名古屋の文化だけど、名古屋メシとは、ちょっと違うと思う」

「名古屋コーチン」

「それ、食材。料理名じゃない」

「手羽先」

「ビールのおつまみにはいいかも知れないけど、わたし高校生」

「エビフライ」

「えびふりゃーって言い方だけでしょ。そもそも言っている人、見たことないし」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・なにが食べたい?」

「うーん・・・」


 どれも美味しいのだが、ダイエットが枷になっているようだ。


「どて煮」

「しぶいチョイスだけど、それでいいかな。味噌おでんなら野菜も多いし」


 そういうことになった。

 ちなみに、モツ系と牛スジ系の店があるが、牛スジ系の店を選んだ。

 店に入ると、メニューを適当に注文し、出てくるのを待つ。


「お仕事はどう?」

「大阪に出張にいった」

「お土産は?」

「ない」

「残念」


 雑談をしていると、注文した品が運ばれてくる。


「牛スジ、多くない?」

「大阪でどて焼きっていうのがあって、牛スジにハマった。名古屋のどて煮も美味い」

「ふーん・・・あ、ホントだ」


 未成年との食事で自分だけアルコールを飲むわけにはいかない。

 今日はウーロン茶だ。


「アルバイトは、いつからしているんだ?」

「最近だよ。スマホ買い替えたくて」

「学生なんだし、ほどほどにな」

「目標額まで貯まったらね。ハイ♪」


 手の平を見せてくる。


「?」

「おこずかい、ちょうだい♪」

「やらん」

「ちょっと早めの、お年玉でもいいよ♪」

「10月だぞ。ちょっとじゃないし」

「ぶー!」


☆★☆★☆★☆★☆★


 やはり奢る羽目になった。

 別にいいけど。


「ほら、電車代」


 別れ際、紙幣を渡す。


「いいって。おこずかいは冗談だから」

「おこずかいじゃないって。いいから受け取っとけ。成績、落とすなよ」


 派手に遊んでいるわけじゃなさそうだし、このくらいはいいだろう。

 甘やかしている自覚はあるが、年の離れた妹みたいなものだし、世話も焼きたくなる。


「ありがと。もらっとく」


 手を振りながら、彼女は帰っていった。


 ・・・・・


 ふと、振り返ると、ギルド(自社)で見かけたことのある女性がこちらを見ていた。

 こちらが気づいたことに、向こうも気づいたようだ。


 ふいっ


 挨拶をしようと思ったら、あからさまに視線を逸らされた。


 ・・・・・


 客観的に先ほどの状況を考えてみた。

 制服を着た女子高生に、お金を渡して、楽しげにお喋り。

 ・・・援助交際と思われた?


 誤解!


☆★☆★☆★☆★☆★


 数日が経過したが、周囲で変な噂が立つことはなかった。

 ほっとしたのは内緒だ。

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