第15話 ジャック

 ジャックという名前のモンスターがいる。


 ジャック・オー・ランタン

 ジャック・ザ・リッパー

 ハイ・ジャック


 この中で、今の季節に一番出会いやすいのは、ジャック・オー・ランタンだ。

 10月上旬になると姿を現し始め、10月下旬なると唐突に姿を消す。

 もとはカブの憑依した霊であったらしいのだが、最近はカボチャに憑依することが多いようだ。

 たまに、それ以外のものに憑依しているところを見かけることもある。


☆★☆★☆★☆★☆★


 今日は休日だ。

 近所の店に買い出しにきた。


「いらっしゃいませ」


★ジャック・オー・ランタン(人型)×1が現れた★


 頭に尖ったカボチャが乗っている。

 どうやら、店員に憑依したようだ。


「・・・・・」


 しばらく行動をうかがっていたのだが、店員に普段と変わった様子はない。

 憑依されている自覚がないのだろうか。

 たんたんと仕事をこなしている。


「・・・まあ、いいか」


 普段と変わらない様子に逆に違和感がある。

 ただ、襲いかかってくる気配もないし、放置することにした。

 その後は、店内の通路を回っていく。

 いつも歩くルートは決まっている。


★ジャック・オー・ランタン(生首)×10が現れた★


 棚にジャック・オー・ランタン(生首)がいた。

 だが、動く様子がない。

 商品と一緒に陳列されている。

 冒険者に討伐された後、見せしめに生首をさらされているのだろうか。


 そういえば、ジャック・オー・ランタン(生首)には、悪霊を祓うという噂があるらしい。

 魔除けとして、乱獲されて、飾られているのだろうか。

 その後、店内を回ると、所々に同様の光景が広がっていた。

 やはり、ジャック・オー・ランタン(生首)を飾りとして利用しているようだ。


☆★☆★☆★☆★☆★


「こ・・・これは・・・」


 ハロウィンコーナーと名付けられた棚にきたときに、それはあった。

 その棚には、ジャック・オー・ランタン(生首)がプリントされた商品が並んでいた。


 スナック菓子

 インスタント食品

 子供の玩具

 etc


 そこまでは解る。

 だが、次が解らない。


 かぼちゃ


 ぽつんと、置かれていた。

 ジャック・オー・ランタン(生首)がプリントされているわけではない。

 野菜コーナーというわけでもない。

 ただ、ぽつんと、置かれていた。


 そろーっ


 恐る恐る手を伸ばして、裏を見る。


 170円


 ただただ、それだけが書かれたシールが貼られていた。


 そっ


 音を立てないように元の場所に戻す。

 なんだろう、この感覚は。

 ぽかんと胸に穴が空いたようだ。


 もう一度、ソレを見る。


 やはり同じ光景が広がっていた。

 なんの捻りもない。

 飾ってあるわけでもない。

 価格が安いわけでもない。

 周囲の盛り上がりなど知ったことかとばかりに、ごくごく普通のかぼちゃが置かれていた。


「えーっと・・・」


 周りを見渡す。

 親にスナック菓子や玩具をねだる子供。

 インスタント食品を手に取る一人暮らしらしい男性。

 だが、誰もがソレが視界に入っていないかのように振るまっている。

 なんだろう。

 もしかして、自分にだけ幻が見えているのだろうか。


 そっと、もう一度、手を触れてみる。


 170円


 すっと、手を離す。


☆★☆★☆★☆★☆★


 その日は、かぼちゃサラダの総菜を買った。


 一人暮らしの男に、かぼちゃの料理は荷が重い。

 自分では救いの手を差し伸べることはできなかった。


 一口ずつ摘みながら、哀れなかぼちゃの行く末を願った。

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