第14話 魔都

「・・・というわけで、お客様にデモをするから、支援を依頼したいそうだ」


 ギルド(自社)に到着したら、朝から課長から呼び出された。

 用件はクエストの指名依頼だ。

 過去に担当したクエスト(システム開発)の派生クエスト(次期システムの売り込み)らしい。

 今回担当はしないが、応援を依頼された。


 クエストの内容は問題ないが、問題は場所だ。

 独自の文化で発展を遂げた、現出した異界、魔都(大阪)だ。

 その地には、瘴気(笑気)が満ちており、長期間滞在すると精神を浸食されるという。


 現地のギルド(支店)のパーティーに合流して、クエストをおこなう。

 今回は日帰りだが、気を引き締めなければならない。

 翌日の早朝、現地へ向かった。


☆★☆★☆★☆★☆★


 転移ポータル(大阪難波駅)に到着した。

 ここから、しばらく歩いて、現地のギルド(支店)に向かう。

 出口を間違えないように注意しながら、転移ポータルの外に出る。


 ふわり。


 どこからともなく、人を誘い込むような香りが漂ってきた。

 身体にまとわりつく。

 だが、不快ではない。

 むしろ、幸福感に包まれている。


 ふらっ・・・


 抗い難い誘惑に身体が引きずられる。

 白と黄金の流れが喉を通過し、鼻孔をくすぐる感覚を幻視する。


「くっ!」


 鋼の意志でなんとか堪える。

 今回は観光に来たわけではない。

 いくら朝早く、小腹が空いているからといって、待ち合わせの時間に遅れるわけにはいかない。


「うぅ・・・」


 何度も後ろ髪を引かれる。

 後ろを振り返らないように耐えながら、辛うじて歩を進めることができた。


 さすが魔都(くいだおれの街)。

 現地に到着してすぐに、洗礼を受けた。


☆★☆★☆★☆★☆★


「今回はよろしくお願いします」


 やっとの思いでギルド(支店)に到着した。

 現地のパーティーメンバーと挨拶を交わす。


 午前中は作戦会議。

 クエスト(お客様へのデモ)は午後からだ。


「昼飯を食べにいきましょう」


 昼飯はコナモンと呼ばれる郷土食だった。

 旨いことは旨いのだが、これは地元(名古屋)にも食文化が流れてきている。

 それほど大きな驚きは覚えなかった。

 あるいは、アンダーグラウンドに潜れば、驚きに出会う可能性はあるが、今回はその機会に恵まれなかった。


☆★☆★☆★☆★☆★


 午後からはクエスト(お客様へのデモ)だ。


「お待たせしました」


★アキンド(大阪商人)×1が現れた★


 ニコニコと笑顔を浮かべている。

 しかし、その瞳は笑っていない。

 こちらの心を見透かすかのような、深い闇を携えている。


「本日はご足労いただき、ありがとうございます。それでは説明を始めさせていただきます」


 パーティーメンバーが攻撃(デモ)を繰り出している。


「ほー。そんなこともできるんですか」


★アキンド(大阪商人)は攻撃を躱している★


 攻撃を受けるたび、相手は反応を見せている。

 一見、攻撃が効いているように見える。

 だが、以前、似たような相手と対戦したことがある自分には判る。

 あれは、攻撃が効いていない。

 『そんなこともできる=余分な機能が付いている』だ。


 しかし、今回のパーティーメンバーは、まだ若いようだ。

 攻撃(機能の説明)に必死で、そのことに気づいていない。

 相手からの攻撃(要望)を受ければ気づくこともあるのだが、そのことを怖れて自分から攻撃することしか頭に無いようだ。

 援護しようと機会を伺っていたのだが、こちらにターンを明け渡すことも忘れているようだ。


☆★☆★☆★☆★☆★


「本日はありがとうございました」


 パーティーメンバーが戦闘を締めくくる。

 結果(契約する/しない)が出るのは数日後だ。

 しかし、自分にはクエスト失敗の可能性が高いことが予想できた。

 結局、最後まで援護する機会は訪れなかった。

 強引に出も前に出ればよかっただろうか。

 自分もまだまだ未熟ということだろう。


 日帰りのため飲むつもりは無かったのだが、気分転換に酒場(串かつ屋)に繰り出す。

 牛スジを煮込んだドテヤキという郷土料理が気に入った。

 地元と違い、赤ではなく白だったが、普段口にしない風味が気に入った。


 今回のクエストの唯一の収穫だ。

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