第13話 大罪

 今日は周回クエスト(お客様との定例会)だった。

 参加者は課長、自分、後輩と、いつものメンバーだ。


「涼しくなってきましたね」


 そんなセリフから始まったクエストだったが、特に大きなイベントもなく、無事に終わった。

 朝からのクエストだったので、時刻はちょうど昼だ。


「昼飯でも食べていこうか」


 ダンジョン(客先)から出たところで、課長がそんなことを言い出した。


「戻っても会社の食堂は閉まってますしね~」


 確かに後輩の言う通りだ。

 しばし、周囲をぶらついて目ぼしい飲食店を探す。


「ここにしましょう~」


 店の前に置かれたサンプルを指さしながら、後輩が言う。


『秋の実り定食』


 そこには、そう書かれていた。


☆★☆★☆★☆★☆★


 ところで、七つの罪源というものを、知っているだろうか。

 これは、もともと八つであり、厳しさの順に、


 暴食

 色欲

 強欲

 憂鬱

 憤怒

 怠惰

 虚飾

 傲慢


 だったそうである。

 それが、順序が変更されたり、統合されたり、追加されたりして、


 傲慢

 憤怒

 嫉妬

 怠惰

 強欲

 暴食

 色欲


 となったらしい。

 もともとの意味では、それ自体は罪ではなく、罪に導く可能性がある感情とされている。


「お待たせしました」


 10分ほどして店員がメニューを持ってくる。

 課長の前には、とんかつ定食。

 自分の前には、サンマ定食。

 後輩の前には、秋の実り定食。


「わ~」


 後輩が歓声を上げる。

 サツマイモを使った炊き込みご飯。

 鮭を使った主菜。

 キノコを使った副菜。

 クリやカキを使ったデザート。

 秋の食材がふんだんに盛り込まれている。

 なかなかのボリュームで自分は選ばなかったが、確かに美味しそうだ。


「秋はおいしいものが多くて、ふとっちゃいそうです~」


 と言いつつ困った様子はない。


「おいしそうだね」

「はい~」


 素直な感想を伝えてみると、変わらずニコニコしている。


「食欲の秋とは言っても、そんなに食べると太るんじゃないか?」

「む~」


 課長の感想には、ちょっと不機嫌になった。

 自分でも似たようなことを言っていたと思うのだが、他人から言われるのは嫌なようだ。

 女心と秋の空。


「いいんです~。旬のおいしいものを食べた方が、人生が豊かになると思います~」


 ちらりと自分のメニューを見る。

 サンマ定食。

 一応、旬のものだろう。


 課長も自分のメニューを見ている。

 とんかつ定食。

 美味しそうだが、旬と言われると微妙だ。


 先ほどの後輩のセリフは、深い意味は無いのだろうが、ちょっと棘がある。

 その前の課長のセリフも、女性に対してデリカシーがないので、おあいこだろうが。


「いただきます~」

「いただきます」

「・・・いただきます」


 とんかつ定食を食べる課長が、少し寂しそうだった。

 せめて、みそかつ定食なら、反論できただろうに。

 名古屋名物とか言って。

 もし、後輩のセリフが狙って言ったのだとしたら、ちょっと怖い。


☆★☆★☆★☆★☆★


 そうえいば、七つの罪源はそれに相対する美徳というものがあるそうだ。


 傲慢⇔謙譲

 憤怒⇔慈悲

 嫉妬⇔忍耐

 怠惰⇔勤勉

 強欲⇔分別

 暴食⇔節制

 色欲⇔純潔


 また、七つの罪源は動物として描かれることもあるそうだ。


 傲慢・・・蝙蝠

 憤怒・・・狼

 嫉妬・・・蛇

 怠惰・・・牛

 強欲・・・狐

 暴食・・・虎

 色欲・・・兎


 なぜか、虎や狼に食い荒らされる牛の姿が思い浮かんだ。

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