第12話 白い悪魔
冒険者たるもの身体が資本だ。
冒険を続けられるかどうかを試すために、ギルド(自社)から定期的に悪魔の儀式(人間ドック)への参加を義務付けられている。
「それでは身長、体重の計測からお願いします。」
受付を済ませ、決められたルートに従い、白い建物の中を進む。
儀式の前半は軽いものだ。
たまに負傷(血液検査)することもあるが、数分で完治する程度だ。
儀式の中盤になると、しだいに危険度が増していく。
身体を電極で縛られる(心電図)。
身体に超音波をぶつけられる(超音波検査)。
不可視の光線で身体を貫かれる(レントゲン検査)。
など。
普段は経験することのない、怖ろしい儀式が増えていく。
しかし、ここまではまだ序の口だ。
新人冒険者の多くは、ここまでで許されることが多い。
だが、経験を積んだ冒険者は、この先に進まなければならない。
終盤の儀式は、さらに狂気を孕んでいく。
体内に蛇のように曲がりくねる棒を差し込まれる(胃カメラ)。
体内に泡立つ粉末と吐き気をもよおす液体を流し込まれる(バリウム検査)。
など。
その範囲は体内にまでおよぶ。
中盤までは軽々とこなしていた冒険者でも、終盤は悲鳴を上げることもあるという。
その辛さは指数関数的に上がっていくのだ。
「それでは、次はバリウム検査になります」
ついに、きてしまった。
ここまで来て逃げるわけにはいかない。
「こちらに乗ってください」
言われるがまま、生贄の祭壇に乗る。
粉末とボトルを手渡される。
「まずは、発泡剤を飲んでください」
なるべく味覚を刺激しないように粉末を口に含む。
とたんに粉末が泡立ち始める。
さらに、ボトルの液体を一口含み、一気に飲み干す。
体内を内側から食い破るかのような圧力が発生するが、必死に耐える。
「すべて飲みましたか?」
息をするのも慎重になっているところへ、無慈悲に問いかけてくる。
「はい、大丈夫です」
僅かに口を開けて、それだけを絞り出す。
今にも口から悪魔が噴き出しそうだ。
しかし、ここで悪魔を逃がしてしまえば、さらに辛い状況になる。
「げっぷは我慢してください」
こちらに釘をさすように、指示をしてくる。
逆らうつもりはないから、早く先に進めて欲しい。
「それでは、バリウムを飲んでください」
手元のボトルに視線を移す。
それはまるで悪魔の血液のごとく、どろりとしている。
白く濁るその液体を、少しずつ口に運ぶ。
吐き気を覚えながらも、すべてを胃に落とし込む。
ゴクン
ようやく、すべてを飲み終えた。
だが、儀式はここからが本番だ。
ガラスの向こう側から、生贄の祭壇が動かされる。
ときに、逆さに貼り付けにされ、ときに身体をねじられ、儀式は進む。
「それじゃあ、少しお腹を押しますね」
悪魔の腕が、儀式に縛り付けられている、こちらの身体に伸びてくる。
ゆっくりと、じわじわと、押しつぶしてくる。
あと僅かで、腹部に穴が開くかと思ったところで、ようやく悪魔の腕が戻っていく。
「バリウム検査は以上です」
ようやく儀式が終了した。
口をゆすぎ、息も絶え絶えになりながら、受付に戻る。
「お疲れ様でした。本日の検査は終わりです」
ほっと、安堵の溜息をつくが、まだ後始末が残っている。
「下剤を渡しますから、早めにバリウムを出してくださいね」
体内に残った白い悪魔を対外に排出する必要がある。
長く悪魔を体内に留めておくと、怖ろしい病気に繋がることがあるという。
辛い思いをすることは解っているが、それでもすぐに渡された錠剤を飲み込む。
毒を持って毒を制すだ。
☆★☆★☆★☆★☆★
後日、届いた結果は、問題ない旨の内容だった。
冒険を続けるためとはいえ、もう少し楽にならないだろうか。
無理なことは解っているが、愚痴をこぼさずにはいられない。
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