第10話 天空の楽園

 今日は先日、協力を依頼した魔法使いパーティとの懇親会だ。

 場所は天空の楽園(屋上ビアガーデン)だ。


 天空の楽園は、夏になると、どこからともなく出現し、秋になる頃には、いつの間にか消滅する。

 もうすぐ、秋になる。

 せっかくなので、行ってみようということになった。


 メンバはこちらのパーティからは、課長、自分、後輩。

 向こうのパーティからは、先日のメンバだ。


「お待たせしました」


★魔法使い(プログラマー:男性)×1が現れた★

★見習い魔法使い(プログラマー:男性)×1が現れた★

★見習い魔法使い(プログラマー:女性)×1が現れた★


 約束の時間より5分ほど遅れて、向こうのパーティが待ち合わせの場所に姿を現した。

 そういえば、前回も遅れてやってきた。

 時間にルーズなのだろうか。

 もしくは、宮本氏佐々木氏の逸話のごとく、何か意味があるのだろうか。

 魔法使いは常人とは異なる思考回路をしていると聞くので、そうなのかも知れない。


「それじゃあ、行きましょう」


☆★☆★☆★☆★☆★


 数分後、到着した。


「わ~~~」

「夜景が綺麗ですね」


 後輩と見習い魔法使い(女)が歓声を上げる。

 あまりこういうところに来たことは無かったが、確かに景色がいい。


「ほらほら、外を見るのは乾杯してから」


 課長はアルコールの方に気が行っているようだ。

 そんなに急かさなくてもいいと思うのだが。

 席に案内されて飲み物を注文する。

 食べ物はコースで頼んでいる。

 注文した飲み物が届くまで、しばし談笑する。


「一緒に飲むの、ひさしぶりだね~」

「新入社員のとき以来?」


 どうやら、後輩と見習い魔法使い(女)は同期のようだ。

 どうりで、ここへ来る道中から仲がよさそうだと思った。


 ちらり。


 隣を見ると、課長と魔法使い(男)が過去のクエスト(プロジェクト)の話題で盛り上がっている。

 なにが面白いのは理解できないが、過去の苦労話を語り合っている。


 ちらり。


 見習い魔法使い(男)は微妙にどちらの話題にも参加できないでいるようだ。

 ここは、自分が話しかける流れだろうか。

 しかし、よい話題が思いつかない。

 打ち解けたわけではないが初対面でもない。

 今さら天気の話もないだろう。


 話題を探して周囲を見渡す。


「今シーズンの球団は・・・」

「前シーズンは選手が・・・」


 少し離れた場所にいる集団の声が聞こえてくる。


 そういえば、この地域には、龍を信仰する秘密結社(ドラゴンズファン)が存在するらしい。

 普段は世間に紛れ込み、見分けが付かない。

 だが、その信仰心は深く、彼らにとっての禁句を口にすると、激情を露わにしてくる。


 また、ここより西の地域には、虎を信仰する秘密結社(タイガースファン)が存在するらしい。

 異なる対象を信仰する秘密結社は敵対関係にあるらしく、彼らが出会うと暴動に発展することもあるという。


 とはいえ、他に話題も思い浮かばない。

 軽い内容なら大丈夫だろう。


「プロ野球は見る?」


 時期的にも丁度良いし、まずは話題を振ってみる。


「わたしは、ドラゴンズのファンです~」

「わたしも、そうですね」


 話が一区切りしたのか、先に後輩達が答えてきた。


「私はタイガースを応援している」

「同じです」


 なぜか、課長達からも回答がきた。


「・・・・・」


 こちらが話題を振った相手は口を開きかけたまま固まっていた。

 気の毒に、喋るタイミングをずらされたようだ。

 しかも、運の悪いことに、龍と虎に左右から挟まれる形になっている。


 がくがくブルブル


 龍虎の戦いに紛れ込んだ会われた哀れな旅人のように、小刻みに震えている。

 2対2。

 へたに数が均衡したせいで、場は奇妙な緊張感に包まれている。

 僅かな、きっかけで天秤が傾く。


 ぎょろっ


 ヒッ!


 8つの瞳が、一斉に哀れな旅人を集中する。

 街の灯りを反射して、ぎらついているようにも見える。

 声にならない悲鳴が漏れた。

 瞳は無言で問いかけている。

 おまえはどちらだ、と。


「お待たせしました」


 そこへ店員が飲み物を運んできた。

 緊張が緩む。


「それじゃ、乾杯しましょうか?」


 話題を逸らすように、ジョッキを持ち上げる。


『乾杯!』


☆★☆★☆★☆★☆★


 その後は、和やかな雰囲気で懇親会が進んだ。

 やはり、軽くだとしても危険な話題には触れるべきではなかった。

 気の毒なことをしてしまった。


「プロ野球って観ないんですよ。Jリーグは観るんですけど」


 後でこっそり教えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る