第9話 魔法使い
先日の討伐クエスト(仕様書レビュー)の結果を受けて、今日からは次の工程に移る。
すでに別のパーティに協力を依頼している。
待ち合わせ時間の5分前に約束の場所に到着する。
「お待たせしました」
★魔法使い(プログラマー:男性)×1が現れた★
★見習い魔法使い(プログラマー:男性)×1が現れた★
★見習い魔法使い(プログラマー:女性)×1が現れた★
待ち合わせ時間を5分ほど過ぎた頃に相手が現れた。
冒険者はジョブにより役割が異なる。
自分のような戦士は、モンスター(お客様)との戦闘をおこなう。
今回協力を依頼した魔法使いは、古代語(C言語)や精霊語(JAVA言語)など、常人には理解できない言語を駆使し、魔法(プログラム)を構築する。
自分も多少は魔法を使うことができるが、大規模なものは無理だ。
それを専門とする人間には敵わない。
「お客様との仕様書レビューが完了しました。今日は仕様書の説明をさせていただきます」
「よろしくお願いします」
同じ動きをする魔法でも、見習い魔法使いと経験豊富な魔法使いでは、全くの別物になる。
一見すると同じ動きをしているように見えても、見習いの手による僅かな綻び(メモリリーク)が、後々の戦局を不利にする。
実際、過去にそういったことがあった。
報酬の安さだけで依頼する相手を決めると、最終的にクエストが失敗することが多い。
できるだけスキルの高い魔法使いを仲間に引き込むのが、クエストを成功させるカギになる。
しかし、約束した相手が連れてきた二人が新人だ。
その点が、少し気になる。
経験豊富な人間がフォローするならよいなのだが・・・
☆★☆★☆★☆★☆★
「説明は以上になります」
こちらからの説明は終わった。
次は相手の番だ。
気になった点を確認しよう。
「そちらの開発体制はどのようになりますか?」
「私がA機能、彼がB機能、彼女がC機能を担当します」
自分が把握している規模と難易度は次の通りだ。
Aは、規模は大で、難易度は中。
Bは、規模は中で、難易度は低。
Cは、規模は小で、難易度は高。
AとBは大丈夫だと思うが、Cが不安だ。
ちらりと三人を見る。
★魔法使い(プログラマー:男性)は平然としている★
★見習い魔法使い(プログラマー:男性)は安心している★
★見習い魔法使い(プログラマー:女性)は不安そうにしている★
見習い魔法使いの二人は担当範囲の規模と難易度を理解しているようだ。
だが、魔法使いの方はどうだろうか。
自分の担当範囲は理解しているだろうが、全体を理解しているだろうか。
「事前に送付した仕様書を参照して体制を決めていただいたと思いますが、本日の説明で変更はありませんか?」
「いえ、大丈夫です」
自信に満ちた表情で魔法使いが答えてくるが、逆に不安になる。
見習い魔法使いに同意を求める様子もない。
自分の担当範囲しか説明を聞いていなかったのではないだろうか。
「機能Cは規模に対して難易度が高いです」
「そうなのですか?」
「品質を確保するために対策が必要だと思います。レビューや試験を多くするなど。担当を入れ替えるのも1つの案だと思います」
「・・・・・」
ようやく、状況を理解できたのだろうか。
魔法使いが難しい表情で考え始めた。
渡した資料を見返している。
・・・・・
10分ほど経過しただろうか。
「私がC機能、彼がB機能、彼女がA機能に担当を変更します」
★魔法使い(プログラマー:男性)は平然としている★
★見習い魔法使い(プログラマー:男性)は安心している★
★見習い魔法使い(プログラマー:女性)はまだ少し不安そうだ★
こちらが指摘した点をそのまま対応してきたような変更だ。
先ほどよりはマシだが、まだ少し考慮が足りないように思う。
難易度は大丈夫だろうが、規模も無視してはならない。
「そうですか。機能Aは規模が大きいですが、スケジュールはそのままでよかったでしょうか?」
「・・・一度持ち帰らせてください。正式な回答は明日ご連絡します」
変更前の分担ならスキル的に問題なかっただろうが、今の分担では不安が残る。
個人のスキルには言及せず、それとなく問題点を指摘する。
最初は自分が担当しようとしていた範囲だからだろう。
一度、問題ない旨の回答をしたのに、分担を変更したら間に合わないとは言えないのだろう。
今度は慎重な回答をしてきた。
「わかりました。ご連絡をお待ちしています」
☆★☆★☆★☆★☆★
新しい体制は次のようなものだった。
機能Aを機能A-1と機能A-2に分割。
機能A-1:魔法使い(プログラマー:男性)
機能A-2:見習い魔法使い(プログラマー:女性)
機能B :見習い魔法使い(プログラマー:男性)
機能C :魔法使い(プログラマー:男性)
「ふむ・・・」
まあ、妥当なところだろう。
承知したとの回答を返す。
「ふぅ・・・」
クエストが失敗するのは、モンスター(お客様)が原因の場合より、身内(プロジェクトメンバ)が原因の場合の方が多い。
ときには自分が足を引っ張ることもあるだろう。
人の振り見て我が振り直せ。
冒険者(サラリーマン)は日々修行(スキルアップ)が求められる。
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