第4話 討伐クエスト

 クエストには色々な種類がある。


 捕獲クエスト(営業活動)。

 討伐クエスト(開発業務)。

 採掘クエスト(顧客開拓)。

 etc


 今日のクエストは、ダンジョン(客先)に出向いて、モンスター(お客様)を攻略する討伐クエストだ。

 このクエストは1回では終わらず、数ヶ月をかけて攻略する予定だ。


 対象モンスターとは、すでに数回接触しており、おおよそ生態は分かってきた。

 通常攻撃はそれほどでもないが、まれに広範囲/大ダメージの特殊攻撃(仕様変更依頼)を繰り出してくることがある。

 いかに特殊攻撃を発生させないように誘導するかが、攻略のポイントだ。


 今回の戦闘(仕様書レビュー)を成功させれば、クエストクリアはぐんと楽になる。

 勝負どころだ。

 午前中に戦闘準備の最終チェックを念入りにおこない、午後一でダンジョンに向かう。

 今回のパーティーは、次のメンバーだ。


 上司:冒険者ランクB(課長)・・・後衛

 自分:冒険者ランクC(主任)・・・前衛

 後輩:冒険者ランクD(新人)・・・待機(議事録当番)


 入社2年目である後輩はまだ戦闘に慣れていない。

 今回は勉強の意味合いもあり連れていくが、戦力としては期待できない。

 上司は知識/経験が豊富で戦力になるが、まれにフレンドリーファイアで味方にダメージを与えることがある。

 味方ではあるが、戦闘時は注意を払わなければならない。


☆★☆★☆★☆★☆★


 転移ポータルを経由してダンジョンに到着した。


「それじゃあ、お客様に電話するぞ」


 上司がミスリルソード(ガラケー)を抜き放ち、戦闘開始の合図を送る。


★魔術師(お客様 キーマン)×1が現れた★

★魔術師見習い(お客様 若手)×1が現れた★


 数分後、姿を現した相手と共に、戦場(会議室)へ移動する。


「よろしくお願いします」


 戦闘開始だ。

 

「本日は、こちらの仕様書を説明させていただきます」


 パーティーで戦術を練った(内部レビューした)攻撃だ。

 ところどころで上司も追撃(補足説明)を入れ、堅実に攻撃を重ねていく。

 前半は順調に戦闘が進んだ。

 戦局に変化があったのは中盤だ。


「実はここの機能を一部変更したいと考えているのですが・・・」


★魔術師(お客様 キーマン)は氷結の呪文を唱えた★


 ピシッ。


 気温が数℃低下したように感じた。

 この攻撃は、対応すること自体は可能だが、影響範囲が大きい。

 最初から想定していれば問題なかったが、今から対応するのはリスクが大きい。


「対応は可能でしょうか?」


★魔術師(お客様 キーマン)は特殊攻撃(仕様変更依頼)の準備をしている★


 ここは慎重な対応が重要だ。

 ちらりと上司に視線を送る。


「え~~~、仕様変更が発生しますが、対応は可能だと思います」


 マズい!


 その回答は危険だ。

 知識/経験で対応可能であることには気づいているが、影響範囲に気づいていない。

 恐れていた、上司からのフレンドリーファイア|(安易な仕様変更依頼の了解)だ。


「確かに、対応は可能です。ただし、変更前と変更後でメリットとデメリットがあります」


 即座に形勢を立て直す。

 相手に選択させる方向に持っていく。

 自分の選択で決まるとなれば責任を伴う。

 臆病な相手なら、それだけで取り消すだろう。

 だが、この手強い相手に、どこまで通用するかわからない。

 さらに、トラップを仕込む。

 気づかれない程度に、前者と後者の割合に差をつけるのだ。

 戦局がこちらに有利な方向に動くように誘導する。


 これで駄目なら、追加費用を要求した上で、引き受けるしかない。

 肉を切らせて骨を断つ戦術だ。

 できれば、やりたくはないが仕方がない。

 ここで思わぬ伏兵が動いた。


「私は変更前の方が使いやすい気がします。変更後だと・・・」


★魔術師見習い(お客様 若手)は不思議な踊りを踊った★

★魔術師(お客様 キーマン)は気をとられた★


 動きを見せなかった相手が、突然、戦闘に参加してきた。

 不意打ちだったが、結果的にこちらに有利になっている。


「いったん、変更の依頼は取り下げます」


★魔術師(お客様 キーマン)は特殊攻撃(仕様変更依頼)を中止した★


 危ないところだったが、危険は回避できた。

 その後は、大きな攻撃を受けることもなく、本日の戦闘は終了した。


☆★☆★☆★☆★☆★


「それでは、本日はありがとうございました」


 1つの山場を乗り切った。

 まだまだ、山場は訪れるだろうが、まずは一安心だ。

 クエストクリアに一歩近づいた。

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