11月29日-2-

「復讐の為に私を殺したいの?」


「当たり前だろ!お前は何人・・・いや、何百人と人を殺してきたんだからな」


「私にはそれが出来るからやっただけ」


「その考え方が傲慢なんだよっ!!」


前谷は叫んだ。


「・・それじゃあ聞くけど、あんたが私を殺そうとしてるのは傲慢じゃないわけ?」


「は、はぁ?」


何を言ってるんだこの女は?


「私を殺した時点であんた達も私と同類な・・・ー」


「ふっ、ふざけんなっ、カス!!」


遮り前谷は叫んだ。


微塵も動揺を見せない凛音は、コキコキと首を左右に振っている。

相手を逆なでする話し方に私自身も緊張が解けてきた。


「こいつに何を言っても無駄だ」


前谷の肩に手を置き告げた。

肩は震えている。

理性を保てるのが限界のようだ。


「私を殺したらあんた達は勿論、家族にも危険が及ぶ事は分かっててやってる?」


「死ぬ間際の命乞いのつもりだろうが我々にそんな脅しは通用しない」


「あっそ」


凛音はまるで他人事かのように言った。

堂々としている・・・というより、どうでもよさそうに映った。


不安や恐れといったものを全く感じない。

舐めているというより、あしらわれている様に思う。


まさかこの状況で自分は殺されないとでも思っているのか?


強張った表情でもなく、現状を理解しているのかどうかすら疑わしい。


「最期に何か・・言い残す事はあるか?」


前谷がそう告げると、凛音はお腹を掻きながら呟いた。


「別に・・ー」


直後、前谷はこめかみに銃を撃った。


あまりにも呆気なく凛音は死んでしまった。


ドサッと倒れる凛音。

ベッド周りの大量の血を見て、なんともいえない気持ちがこみ上げてきた。

拍子抜けである。

こんなにもあっさりと行くとは思ってなかった。


自分を信じて善き行動を取ったつもりだったが、何故か心は晴れなかった。


私は手を汚さず、前谷が凛音を殺めたから?


そうじゃない。

過程より私は結果が大事だと考えている。


これが私の望んだ決断だったのか?


私・・・前谷も、無名島で殺された人達、浅川悠里と大室芹香の為・・・なのか?


皆の無念を晴らしたというのに・・・・


分からない。

釈然としない結末。


だか、あまり今は考えている時間は無い。


「前谷行くぞ」


「はぁ?」


不思議そうに前谷は返す。


「どうした?」


「い、いや・・何言ってるんっすか?」


私は何か間違った事を言ったか?


「どこに行くんっすか?」


どこって・・・


「逃げ・・ー」


「れねぇよバカ!!」


遮り、前谷は叫んだ。


咄嗟の怒鳴り声に驚いたが、「大声を出すな!」と私は返した。


「い、意味分かんねぇし」


そう言いながら前谷は拳銃を自身の頭に向けていた。


「な、何をしている!?」


「お先、失礼します」


小さく呟いて前谷は頭を撃った。


崩れ落ちる前谷。

返り血を浴びる私。


心臓の鼓動が高鳴るのが分かる。


何故・・・


いや、当たり前だ。

その予定だった。


それが正解だ。

私も死ぬ・・・のか。


それは、、


とても・・・・・




嫌だ。


死にたくはない。


何故、私が死ななくてはいけない?


私は何も・・していない。

そうだ、やったのは前谷。

私はただ横で見ていただけ。


事の成り行きを説明すれば・・・助かる。


助かる。


「はぁはぁ」


心臓の高鳴りが抑えられない。


現実で起きている今の状況は何だ?


遠くから走ってくる足音が聞こえてくる。


銃声があったからだろう。


こんな惨状を上手く説明出来るのか?


いや・・・嘘をついてこの場から逃げ出す事はとても出来そうにない。


私は助かりたいのか?


優柔不断にも程がある。

綺麗事を並べ立て、前谷も呆れていただろう。


私は死にたくない。


美由紀や両親に悪いと思いつつ、覚悟を決めていたはずなのに・・・本心はただただ助かりたい。


無理に決まっているのに。

どう転んでも、やって来る護衛を論破出来る自信が無い。


それなら・・・いっそ、やって来る奴らを躊躇無く撃ち殺すか?

いや、待て、出来る訳が無い。

何人いると思っている。


最期まで己の覚悟を貫いた前谷に対して、私はなんと情けない事か。


上っ面だけの正義感。

これでは夏川正護や浅川悠里となんら変わらない。


浅川悠里の遺書を読み、勝手に正義のヒーローを気取っているだけの偽善者だ。




「お、お嬢様っ!?」


駆けつけてきた護衛が息を切らしながら叫んだ。


「せっ、瀬上さんっ?」


島池君だ。

私より年下の新米の護衛。


上手く説明すれば逃れ・・・・


「何があった?」


島池君の後ろから声が聞こえてきた。


同期の稲森だ。


私は震えて声が出ない。

稲森は目を細め周囲を見渡した。


「お前がやったのか?」


ゾロゾロと足音も聞こえる。


完全に詰んでいる。


妻の美由紀の笑った顔が浮かんだ。


「お前はここで一体何をしていたんだ!?」


稲森は叫ぶ。

その瞬間、美由紀の顔が浮かんでいたのに、何故か大室芹香に変わっていた。


意味が分からない。

浮かんだ大室芹香の表情は真顔だった。


「ははっ」


小さく失笑して私は拳銃を頭に向けた。


「お前って言うなカス」


そう告げて私は自身を撃った。









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偽善の愛情 双葉 琥珀 @saku07

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